強まる雨足、喜雨の調 | ナノ
一か月前の体育祭の時、俺を助けてくれた会長と一縷。
俺を襲った生徒は、結局あの後三日間の停学となった。
その後何度か顔を見かける機会はあったが、バツが悪そうにそっぽを向いて全く目を合わせてくれない。
なんだか、悪いことをしてしまったような気持ちになってしまう。
実際は、何も非のあることはしてないのだけど。
でも、二人が駆けつけてくれなかったらどうなっていただろう、と考えると怖くなる。
ああやって駆けつけてくれたから、俺は酷い目に遭わなくて済んだ。
まあ、お姫さま抱っこは恥ずかしかったけど。恐らく誰かに見られていたら今頃噂になっているだろうな。
なんで、こんなに優しくしてくれるんだろう?
会長は元々優しくしてくれるけど、一縷は四月のあの日から見違えるように俺に対して優しくなった。
壊してはいけない陶器を扱うかのように、丁寧に丁寧に、けれど時たま薔薇の棘のような鋭利な言葉を持って心の中に入ってくる。
…俺が話してくれるのを、多分待ってるんだ…。
一縷は俺から無理に聞きだすのではなく、自分から話してくれるのを待っているのだ、恐らく。
乗り越えることを、望んでいるのだ。
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