強まる雨足、喜雨の調

強まる雨足、喜雨の調 | ナノ



雨が、降っていた。


ポツポツとアスファルトに叩きつけられた雨粒は、跳ね返りながらいくつもの水溜まりを形作ってゆく。
屋根から滴る水滴がピチャン、と地面へと叩きつけられる度にその水溜まりの波紋が広がっていって。


梅雨。雨が生命を輝かせる季節。
降り止むことを知らない雨はその雨足をどんどんと強めていく。

まるで晴れの日など、存在しなかったかのように。


俺は、この季節が嫌いじゃない。
ざあざあと煩い雨音も、体中に纏わりつく雨粒も、俺の見たくないもの全てを拭い去ってくれるように感じるから。

冷たい雫が傘から滴り落ちるのを見ていると、心が空っぽになった気がする。
何も考えなくていい。自然の喧騒だけに意識を寄せていればいい。


太陽は、隠されているのだから。










「…うわ、さらに降ってきた…」


傘をずらして降りしきる雨を確認すると、足早に図書館へと急ぐ。
そうしないと、雨で髪が濡れて色が落ちてしまう、と思ったからだ。

運のいいことに図書館に着いた瞬間に雨が土砂降りへと変化した。
恐らく、このまま外を歩いていたらびしょびしょになっていただろう。


「えーっと、枕草子、枕草子はどこかな…」


古文の授業で扱った『枕草子』。
その美しい文体に惹かれてしまった俺は、内容をきちんと読んでみたいと図書館へと足を運んだ。


「お、あった…」


“春は曙。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる”


ペラペラとページを捲ると、あまりにも有名な一節が目に飛び込んできた。


“…秋は夕暮れ…”


続いて目に飛び込んできたのは“秋”の一文字。
意識していないはずなのに、こうして異常な程に気にしている自分がいる。


どれだけ時間が経っても、俺は先に進むことができない。
目を逸らして逃げることしかできていない。



小脇に分厚い書物を抱え図書館を後にすると、自室に戻る為にてくてくと歩みを進める。



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