新緑の香りと澄み渡る青空

新緑の香りと澄み渡る青空 | ナノ


リレーのスタート地点に着き、ぐるっと周りを見渡すとリレーに出場する他の人たちが「は?」という顔をした。


まあ、そうだろう。
俺が出場して勝てる訳がないって思うよね。
A組は完璧に負けたって確信されてるんだろうな…



でも、今回は。


副会長としてではなく春乃として走ろうと思う。
そうしないと悲しむ人がいるから。俺はその悲しむ表情を見たくないから。


…強く、心に決めた。



だから、スタートの合図が鳴るや否や向かい風を切って、切って、切って、新緑の香りの染みついた風を裂いて。


必死になって、ひたすらに走った。


「はあ…っ…はあっ……」


周りを見渡す余裕なんて全くなくて、生まれて始めてこんなに本気で走った…ってくらい一心不乱に走った。


負けたくない、と思ったのだ。
今までは、ヘラヘラとしていることで周りになんと思われようが、別によかった。
けれど、今回だけはどうしてもそれが嫌だった。


「…はあ…っ…、俺、何位…?」


あまりにも一目散になっていたからか、自分が何着なのかも分からない。


『…A組が一位!!!』


だから、耳にアナウンスが聞こえてきた時、「嬉しい」よりも「嘘だろ?」という感情の方が勝っていた―。















「あんな真剣な顔した副会長、はじめて見たよなー」


「めっちゃ足速くなかった?思わず目を疑ったもん」




ーリレーが終了して。
息も絶え絶えにクラスメイトのいる場所まで戻ると、割れんばかりの喝采に迎えられた。


「桜川、最高!あんな足速いんなら最初っから言えよな」


「これでこのクラスが1位になったんだよ?感謝してもしきれないくらいだ」


「びっくりだよねえ〜まさか俺が一位になっちゃうなんて」



信じられない。
上位に入ることだって絶対に無理だと思っていたのに、まさかこんな結果を残せるなんて。

クラスメイトと口々に話しながら人混みを抜けていく。
びしょびしょになってしまった体操着の替えを取りに行くために、一旦教室へ向かうことにしたのだ。

下駄箱で運動靴を脱ぎ上履きへと履き替えていると、ふと数人の喋り声が聞こえることに気が付く。
聞かまいとしても、耳に飛び込んでくる会話を無視することは不可能だった。



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