新緑の香りと澄み渡る青空 | ナノ
「グループ三位でしたね!凄いですっ!さすが一縷様と春乃様です」
興奮した様子でキラキラした瞳を輝かせる優李を見て、「…よかった」と心底思った。
一時はどうなるかと思った一縷とのグループが、まさかこんな結果を残せるなんて。
「ほんと、皆よくがんばったねえ〜一縷っちも、ありがとね」
「いや、桜川が…」
やけに歯切れの悪い一縷に、俺は「…ん?どうしたの〜?」と先の言葉を続けるように促した。
「…なんでもない。上手くいって、よかったな」
何だったんだろう。
彼に限ってあんなに口ごもるだなんてことは、普段からはありえない。
何か、気が付かないうちにしちゃったのかな…?
「…副会長…っ!」
大声で切羽詰まったような声が背後から突然聞こえて、俺は思わず後ろを向く。
息せき切ってやってきた様子の彼は、クラスメイトの人間だった。
肩で息をして、今にも倒れてしまいそうだ。
「…どうしたのお…?」
「副会長に、一生のお願いが…っ」
懇願するような目で、「一生のお願い」なんて言われたら普通は焦るだろう。
汗でびしょびしょの額が、その必死さを表していた。
「クラス対抗リレーの奴が…さっき怪我しちゃって…っ他のやつは他競技があるし、代わりに出てくれそうな人がいないんだ…桜川くらいしか」
「…お、俺でいいの…?」
「頼む…っ、このままだと棄権扱いになってA組に点数がつかないんだ」
ふと、一縷が俺を見つめていることに気が付いた。
漆黒の瞳がゆらあるらと揺れながら、何かを訴えている感覚に苛まれる。
「分かったよお〜集合場所はどこか教えてもらっていいかな〜?」
「本当にありがとうっ!副会長のこの恩は絶対に忘れない…っ」
神様に出会ったかのように感謝されるものだから、「俺はそこまで感謝される存在じゃないよ」と口走りそうになった。
彼に先導されてリレーのスタート地点へと向かう為に足を踏む出したとき、刹那の聞こえるか聞こえないかくらいの声が耳を掠める。
「…ちゃんと、本気だせよ」
すれ違いざまに耳元で小さく囁かれた言葉に、ドキリ、とした。
「え?」と返答する暇もなく声の主、一縷はスタスタと歩いて行ってしまう。
真っすぐに伸ばされた背筋に聡明な顔つきが、他の誰よりも色濃く浮かび上がって見える。
「言われなくても、出すし…」
胸に手をそっと触れてみると、トクントクンと早く脈打っているのが分かった。
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