日常を為すべきだと、刹那

日常を為すべきだと、刹那 | ナノ


「春乃様がわざと本気を出してないの、僕知ってますから」


真剣な瞳で俺のことを見つめながら言うこの子は、阿部優李。
可愛らしい名前同様に、容姿もとても可愛らしい。このまま女の子の格好をして高校に行っても、誰も男だとは疑わないだろう、ってくらいに可愛い。

そして彼は、俺の親衛隊の隊長でもある。
昨日俺に話しかけてきた子達をまとめているのも彼で、噂によるととても怖いとか何とか…。
「春乃様を傷つけたら親衛隊永久追放」らしいというのは風の噂で聞いたことがある。


俺の何にそんなに惹かれるのか分からないけれど、慕ってくれているのは単純に嬉しい。彼らが好きなのは副会長の俺だから、もし俺が素の姿を見せたらきっと絶望するんだろうな。本当はつまらない奴だってことを知ったら、悲しむに違いない。


そうならない為にも。


「やっぱりゆうゆうは優しいね〜?」


わしゃわしゃとふわふわのダークブランドの髪を撫でると彼の頬が薔薇の花びらのようにピンク色に染まった。


あー、可愛いなあ…。


「春乃様っ、僕なんかにそんなことしちゃ駄目です」


「おーい、そこのアホ二人。お前らは騎馬戦な。これだけ好きあってるんだから相性もピッタリだろ。阿部は体格的にも上に乗るのにばっちりだし…あともう一人……うーん、住之江、やってくれないか?」


泉先生が言った言葉に教室中が凍りつく。俺と一縷の仲が良くないということは周知の事実なのに、何でそんな馬鹿なことを言うんだと思うのは当たり前だ。


俺は一縷に対してそれ程嫌悪的な感情はない。けれど、一縷は俺をかなり嫌っているのだ。生徒会に入ることが決まったあの日から、彼は俺の存在に、この口調に、性格に、許せない憤りを感じていることが身にしみるように感じられる…


「絶対に嫌です」


表情を変えることなく、淡々と答える一縷が逆に恐ろしい。元々あまり感情を激しく出すほうではなく、クールな感じだから普通なのかもしれないけど…


「そう言わずにやってくれよー、お前ら生徒会同士でたくさん接点あるんだろ。いい加減仲良くしてくれなきゃ担任としても困るんだよ」


「そんなこと言われても、困ります。大体、俺とこいつが組んで勝てると思いますか?思わないでしょう」


「思わないけど…ま、怖いもの見たさにギャラリーが沸くのは間違いないな」


泉先生の言葉に、一縷は「はあ…」と呆れたようにため息をついた。合わせようともしてこなかった目が、一瞬彼と合う。その瞳は氷のように冷たくて、「嫌われてるんだな」ということを再認識せざるおえない。


「という訳で桜川、阿部、住之江、頼んだからな」


……え?


一縷と優李も「え?」と拍子抜けした声を出す。
いやいや、駄目だろう。一縷と一緒に組むって、本気だったのか。冗談だと思ってたのに。
俺がよくても、一縷がいいという筈がない。

もしそんなことがあったなら、天変地異もいいところだ。


「…分かりました。いいですよ、絶対勝てないですけどね」




だからまさか、一縷がそんな言葉を発するだなんて思ってもみなかった。



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