光は見つからない

光は見つからない | ナノ
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世界が、揺れる。


目の前にいる彼は近くにいてすぐ触れられる筈なのに、俺が差し出した手は彼には届かない。あとほんの数センチの距離が果てなき距離へと成り果てて、可能が不可能になってしまう。

そして二度と、その手を掴むことは出来ない。

足掻いても足掻いても、叫んでも叫んでも、そんなことをしたって無駄だと言わんばかりに彼の姿が消えていく。


…嫌だ…っ、俺を一人にしないで…お願いだから…


知ってるでしょ?俺がどうしようもない弱虫で、君がいなきゃ生きていけないってこと。
君が…、君が勇気をくれたから、俺は生きようと思ったってこと。

世界に眩しい光が差し込んだんだってこと。


だって、言ったじゃないか。「俺が春乃を守ってやる」って。

その言葉は嘘だったの?君は、俺のことなんてどうでもよかったのか?

ごめん、ごめんね。
俺は君を傷つけた。身勝手な俺は、自分の感情に耐えきれなくて…、それで君を、傷つけてしまった。

…分からない…、分からないよ、何も。


ただ一つ分かることは、とてつもなく暗く、明かりが一切見えない世界に足を踏み入れてしまったってこと。そして、そこから出られる出口は見つからないってこと。


「…秋…っ…、置いてかないで。俺を一人にしないで……また一人になっちゃうよ」



ポツリ、と涙が落ちた。









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その涙が現実の世界で自分が流している涙だと気づくまでにだいぶ時間がかかった。


ぼやける視界。真っ暗な部屋。
目を擦りながらまだ覚醒しない頭をやっとのことで動かす。


…あのまま寝たのか、俺……


時計を見ると短針が指している数字は「1」だった。
ベッドの軋む音と心についた消えることのない傷が不思議と似たような調律を奏でているように感じられ、悲しみと苦しみが一気に押し寄せる。


久しぶりに見た。あんな夢。



最近は見ていなかったのに。だって、自分を偽って仮面をつけて、一人でいる時以外は「春乃」でいることをやめたんだからさ。
過去を思い出すことがあっても、それは。



「副会長でいれば、なかったことにできる筈だって、な」


なんて滑稽な道化なんだろう。
分かってるよ、全部。こんなことしたって彼は帰ってこないこと。何も報われないだろうってことも。
分かっているからこそ、辛いんだ。
目を背けてきた事実がもうすぐそこまで迫っていることから、俺はまだ目を背けることしかできない。


フラフラとした足取りで洗面所に向かうと、鏡に映る自分と目が合った。
藍色の瞳が、何か言いたげに揺れている。俺はそれを無視して、意味もなく小さな笑みを口元に浮かべた。



まだ明かりは見つからない。



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