光は見つからない

光は見つからない | ナノ


……カチッ


部屋の電気がつくと、俺の「副会長」としてのスイッチは一瞬にして切れる。


「疲れた…」


周りに誰もいないか確認してから、きちんと玄関の鍵を閉めて部屋に入る。
服を着替え、カラコンを取るとすぐさまベッドに横になった。そうなるともう、動く気がなくなる。
さっきまでの笑顔は消えて、春乃としていられることに心底ホッとしている自分に気がつく。


自分で決断したことなのに、心がついていかなくて偽りを遂行することが苦しい。苦しくて堪らない。


全身に疲れが蔓延して目を瞑ると「どうにかしてくれ」と言った一縷の顔が浮かんだ。


「…俺も、どうにかしたいよ」


ポツリ、と呟いた自分の声があまりにも弱々しいものだから、更にため息が出た。



ふと目に入った明るい金髪の髪は、染めているにしては傷みが少ない。
それも、そのはずだ。
髪はどうしても染める気にならなかった。染めることができなかった。彼が認めてくれたものを、嘘で塗り固めてしまいたくない。嘘の中にも本当が欲しい。
だから毎朝時間がかかることを承知でスプレーに頼っている。黒髪が残っていないか入念に確認しながらスプレーをするので、時間は掛かるが、ウィッグよりは安全だ。


基本的にこの部屋に他人が入ることはないが、誰かが訪ねてくると大変だ。だから、寝る直前まで髪はそのままにすることにしている。
今までも会長や親衛隊の子に何回か部屋を訪ねられそうになったことがあったが、「用事があるから無理」と断ってきた。
特待生という特権を行使して、理事長に掛け合って出来るだけ目立たない位置の部屋にしてもらったので、ここの場所が見つかる可能性は少ない。
皆が住んでいる寮の裏に小さな建物があって、俺はそこに身を寄せている。


誰も、こんな所に足を運んだりしないだろう。


「…けどもうそろそろ限界かな…ずっとはぐらかしてるから怪しまれてるよな」


誰も俺の住んでいる部屋を知らない。
それは異常なことだ。何故教えないのか。何故隠すのか。絶対に怪しまれている。
最初こそ何度も聞かれたが、今となっては皆諦めたのか。


…特に会長には気を付けなければ……。



彼は人並み以上に鋭い。あの優しそうな瞳には鋭い視線が含まれていて、きっと気を抜けば心の内側を打ち破ってくる。


俺が何かを隠していると、勘ぐられているかもしれない。もしかしたら、もう何かに気づいているかもな…。


…きっと、多分。



頭の中でさまざまな思いが錯綜しているうちに、睡魔が襲ってきた。
心が擦り切れるほど苦しくなって、虚無感と失望感の混ざり合った感情が身体中に蔓延する。


ふわ…、という感覚に乗じて目の前が霞み、何も考えられなくなる。



そして俺は、意識を手放した。



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