光は見つからない | ナノ
「えっとお、ここのファイルをかいちょーが整理してぇ、書類は誰がいいかなあ〜うーん、一縷っちでいいやぁ」
「お前、その喋り方どうにかならないのか。やる気が失せる」
俺が何か言葉を発する度に何かと文句を言ってくる、この男。
住之江一縷。
ポジションは会計。黒髪の短髪に、聡明な切れ長の目元は、一見見るものを戦慄させるかのような威圧感を与える。実際の所…、うん、確かに威圧的なんだけどね。
でも実は心優しくて頼りになるから、生徒達から信頼されているってことを、俺はよく知っている。
「前も言ったでしょー俺はずーっとこの喋り方なの!これは俺のアイデンティティみたいなもんなんだからさぁ、生まれついたもんなのよ〜」
「…気持ち悪い。どうにかしてくれ、頼むから」
「無理だってえ」
「…仕方ないですよ、一縷。桜川は生粋のチャラ男です。諦めるしかありません。」
今言葉を発したのは多田樹。この学園で会長をしている。
整った顔に少し茶色がかった髪。あー、女子にもてるだろうなぁ、といつも思うのだが、生憎ここは男子校なので実際のところは分からない。まあ、男子にもててるけど。
もててるというか、尊敬されているというのか。
多分後者なんだろうけど、会長から滲み出る儚さに惹きつけられている、というのもあるだろう。
儚げな空気感の中にある威厳っていうのかな。
会長は常に敬語で、年下でしかも敬語を使わない俺に対しても文句や不平を言ったことが一度もない。
冷静沈着、それでいてクール過ぎるのがあれだけれど、本当に頼りになる存在だ。
会長、副会長、会計。
この三人で生徒会は成り立っている。本来は書記と庶務がいるはずなのだが、昨年の生徒会役員選挙で、該当者が出なかったのだ。
この学園のシステムは変わっていて、選挙が9月と3月に行われるので、次回の選挙で該当者が出てくれればいいんだけどな…なんて。
「そーそー!かいちょーの言う通り!さすが頼れるかいちょーだねぇ〜俺のことよく分かっててくれてうれしいよお」
「別にあなたを擁護しようとしたんじゃありません。事実を述べただけです」
「…つれないねー、かいちょ〜俺だって傷つかない訳じゃあないんだよ?ほんっと、ブロークンハートしちゃう」
「…キモイ」
一縷の冷ややかな視線がぐさっと刺さる。
俺が生徒会に入ったその日から、いやその前から一縷に嫌われてるということは分かっていた。
第一、俺のことをよく思わない奴はこの学園内に沢山いる。この閉鎖的な学園の中では生徒会という組織は言うまでもない有名な組織だが、その中でも会長と副会長は目立っている。いろんな意味で。
その見るからに正反対の会長と副会長は生徒達から見て興味深いのだろう。どこへ行っても視線がグサグサとささる。
まるで見世物のように視線が注がれ、囃し立てられる。
…いい加減、嫌になるくらいに。
そんな俺たちの影に隠れるようになってしまった一縷が不満を持っているであろうことは俺も十分に分かっていた。
一縷は会長に対しては尊敬の念を持っているようだが、俺に対してはいい感情は抱いていない。何で自分が副会長になれなかったのか、どうして俺みたいな奴が会長の下についているんだと憤りを感じているのだろう。
……ごめん、でも。
でも俺は、この立場を譲ることはできない。
偽った姿も、変えることはできない。変えてはならない。
だってこれは、俺に出来る唯一の―――。
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