廻る。





World1:reverse






絶望。
これは絶望だ。とんでもなく暗く、救済などありはしない。
突然眼下に現れたリーオは“リーオ”ではなかった。俺の知らないリーオは口元に微かに弧を浮かべる。
纏う空気も何もかも真逆な彼は俺の、俺のことを守ると―?


目を開けるとハンプティダンプティに貫かれた彼が小さく笑っていた。弧を浮かべた表情とはまた違った妖艶なものだった。ドサリ、と彼の倒れる音がする。
闇夜の瞳がよく見えた。吸い込まれてしまいそうに不思議な輝きを放っていた。
…あり得ない、あり得てはいけない現実が目の前にある。何が起きているのか理解が出来なかった。
分からない、何も。…きっと、これはおかしな夢だ。そうに違いない。



「…好き…」



なあ、どういうことだよ?これは夢じゃないのか?目に映る紅が幻想だって、そう言ってくれよ?…どうして、こんなことになるんだよ。
“少し先の未来から来たんだよ”だって、自分の命の犠牲にして、お前は俺を助けることを夢見たっていうのか?


「憎い…」


口から零れ出したのは遍く感情を置き去りにするちっぽけな、けれども悍わしい感情。


「何が、憎い、の」


リーオが笑った。綺麗で透明な笑みだった。


「何もかも、憎い…どうして、こうなったのか…分からねえよ…
なあリーオ。お前は狡い。どうして今“好き”って言うんだ。…っ…言うんだよ!」


狡い。狡い。狡い…
“愛”をぶつけられて、与えられて、俺も返してやりたいけど、それなにに、リーオは。


「うん…僕は本当に狡い生き物だ、ね。おかしな愛がさ、こうさせちゃったんだよ。
エリ、オット…君、に会わなきゃよかったって思った…けど、ね…僕は、もう、君に出会わなかった自分を想像することすら、出来ない……なんて、滑稽なんだろう」


彼の瞳が閉じられていく。



―消えてしまう。唯一無二の光が。縋り付いていたものが…
―消えて、しまう。



「あい、し…」



俺は彼に愛を求めすぎてしまった。そして、彼も俺に愛を与えすぎてしまった。


“好き”


たった一言の言葉。それが持つ重みはどんな贖罪にも及ぶまい。
こんなことになるなら、出会わなければよかった。何も知らず、俺は俺だけのものであればよかった。許されない愛を“好き”で清算することができるなら…

…彼の死は、俺を壊すのに十分な要素を孕んでいる。愛し愛されることは、狂った愛を通わせることは、残酷な罪だ。



「俺も、お前を愛している…」




ああ、体中が共鳴して罪は奈落へと堕ちる。








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