廻る。





World0×World1:cross 



僕が一体何をしようとしているのか、それは僕自身しか知らないことだ。
誰にも話さず独断でこうするに至ったのだから、当然と言えば当然だ。



―世界を塗り替えてしまおう。そうしてしまえばいい。



恐らく目を向けてはいけないであろう案がひらり、と脳裏をよぎった。
彼が死んでから幾分の時が経った時だった。
それがどんなに道理に反していることでも構わなかった。僕に与えられた力をこの手で利用して何が悪い?
突然に舞い降りた“グレン”の力を施行し、アヴィスへと渡り時を戻す。戻した世界で彼の死という事象が存在することのないように、歴史を変える。
そうは思ったものの一度はそれから目を反らした。…これは、僕のエゴだ。世界を自分中心に考える者のすることだ。あまりにも酷すぎるシナリオだ。
そんなことをして彼の命を取り戻して、僕は何がしたいんだ?と反芻すると心は嘘を付けないことがよく分かった。僕は表面上しか取り繕うことの出来ない人間らしい。
―僕は生きている価値がないから、その命を彼に与えたい。彼が死んでしまったことを受け入れられない…だから彼の身代わりとなって、彼に未来を与えたい。
なんて正直な心なんだろう。自分の運命から逃げてしまいたいだけだ。
でも、もし、奈落に堕ちて輪廻からも外されるような罪を犯す度量を持っている、僕は怖くないと神に乞うたらどうなるだろう。
利己主義すら超えることをしてしまったら?世界なんてどうでもいいと心から言ったら?



―エリオットのことが好き。…愛してる。君が生きてさえくれれば…



“僕は何も望まない”



ああ、この気持ちだけはいつだって僕に正直だ。



そして、今僕はアヴィスの光へと足を踏み入れた。
不確証な場所からは「やめろ、こんなことはしてはいけない」と僕を引き留める声が聞こえる。歴代グレン声だ。止めるのも無理はない。むしろ、彼らの言っていることは正しいのだ。間違っているのは僕で、本来なら静止する声に従わなければならない。


「うるさいな…」


敢えて突き放すような口調で言った。諭す声に耳を貸すわけがないだろう、という自己暗示だ。もう引き返すことのできないよう独裁者の道をひた走る。
徐々に光の色が黄金から純白へ、そして実態を持つ景色へと移り変わる。…あの、場所だ。
君の運命を変えてしまった場所。僕が運命から目を反らし続けたが故に、絶望的で不可避な道を作ってしまった場所。
…ハンプティダンプティ。その名前が憎くて堪らない。救うつもりが、真逆の結果を招いた。エリオットは死なないと信じ込んで後先を考えなかった僕のせいだ。

―行かなければ。今度こそ、守らなければ。

これは、呪いに象られた責務だ。


足を踏み出すと、まるで自分の体を形作っているものが無くなるような感覚に駆られた。
…そして、もう一人の自分と、目が合った。
自明のことだが、僕は、僕だ。一人しか存在することは出来ない。時空を超えようとも、僕という存在が僕以上になることはない。
ぐらり、と僕の影が揺らいだ。
それは一瞬にして泡沫のように消え去り、余韻だけを僕の体全体に残す。…それは体の中で静かに溶けていった。
時を変えることは過ごした時の一瞬一瞬を全て変えてしまうことだ。なんて肥大で重い呪詛。


さよなら、過去の僕。…ごめんね、リーオ。


謝ってなにになる訳じゃないのに、おかしいくらいに過去の自分に謝りたくなる。もう過去には戻れないのだと、エリオットを救っても僕は過去の僕にはなれないのだと再認識して少し悲しくなった。





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