「拝啓 この手紙を読む大人達へ
ごめんなさい。この手紙を読んでいるということは、僕は死んだということですね。
困らせて迷惑をかけた挙げ句、こんな結果になってごめんなさい。
でも僕は、これ以上惨めになりたくないんです。
僕が生きている限り、僕は永遠に惨めなままで虚しい気持ちから逃れられない。
人並みに頑張ろう、とか色々考えたけれど、残念ながら僕は失敗作のようです。
死ななければいけない命だってあるんです。
…あなた達に一番謝りたいのは、僕の命だけでなくもう一人の命を道連れにしてしまうことです。彼は何も悪くないんです。
悪いのは僕です。彼と二人で生きていくにはここはあまりに生き辛いので、死のうと思いました。驚いたことに彼は、それに賛成してくれました。
一緒にいてあげる、と言ってくれました。
だから僕は、彼と一緒にここからいなくなります。
一人は寂しいから、彼と一緒に死ねる僕は幸せ者です。本当に、嬉しいな。」
自分が優位に立っている時はよかった。だけど、他人が僕より優位になることが許せなかった。どんどん惨めになって、存在価値がなくなる気がした。僕は、悔しかった。
その癖して、いつか奇跡のようなものが起こって幸せになれることを願っていた。僕は、ここから逃げ出したかった。
でも、逃げ出せる場所なんてない。
大体、何が幸せなのかも分からないんだから。
幸せを定義付け出来ない僕に、幸せを望む権利などない。
何で死にたいの?
苦しいからだよ。
何で苦しいの?
惨めだからだよ。
何で惨めなの?
満たされていないからだよ。
何で満たされていないの?
一人ぼっちだからだよ。
どうして君は一人ぼっちになってしまったの?
それは、
−それは、彼と出会っていなかったからだよ。
でもね、今は大丈夫。一人ぼっちじゃない。一緒に死んでくれる相手が見つかった。
彼が僕の首を絞めてくれる。細く長い指が僕の首にギリギリとめり込んだ。
彼は笑いながら僕の口を塞いでくれて、息ができないようにしてくれた。
僕を殺してくれるのは本当のことなのだと悟った。
何か言葉が聞こえたような気がする。何だろう、聞こえないや。
「僕もすぐに行くからね」と言ってくれたのかもしれない。そうじゃないと困るのだけど。
僕が死に至る理由は、生きている価値がないからだ。
それ以上も以下もなく、無価値だから死ぬだけ。それに彼が乗じてくれただけ。
それだけだ。
「……すぐに、会おうね」
(fin.)
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