Gott ist todt! Ich möchte verschwinde.
(神は死んだ、私は消滅したいのだ)
ある日、母が私にこう言った。
「人間は素晴らしい生き物なのよ。人間に生まれてこれてよかったね」と。
…うるさいな、と私は思った。
私と貴女は永遠に分かり合えないし、分かり合う必要もないでしょうけど。お願いだから、私に対して偽善を振りかざすのはやめてよ。
目障りなの。貴女にとっての私は「いい子」に違いないんでしょうね。
全部私が悪いんです。こうなるように仕向けたのは、私自身なのだから。
猛り狂う日差しの中、私は神を殺した。
それは必然のような事象であったし、そうしなければならなかった。
価値は無価値に転じ、私は価値の意義を見失った。天賦された才は一つ残らず灼熱の太陽に吸い取られて消えていった。
いい子であることの意味が、私は分からなくなってしまった。
「神が存在しないとは言っていないじゃない」
誰に向けるでもなく、私は言葉を囁く。
私が言いたいのは、本当に簡単なことなのよ。
人間が生まれた理由なんて皆目なくて、私達が今ここに存在するのは唯の偶然に過ぎない。優位に立っているつもりの人間は、本当は何よりも劣っているということ。
私はもう、我慢ができない。
ヒエラルキーの上位に立っているつもりになっている哀れな人間のことも、私自身がその人間だということも。
だから私は、
…私はね、神を殺して私も殺すの。
自分が自分でなくなる前に、怖気付かない前に、縋っているものを全部取っ払って消えてしまおうと思うの。
「勉強の調子はどうかしら?このまま行けば、いい学校に入れるものね。本当にいい子ね」
母が能面のような笑みを顔に貼り付けて私に言葉を与えた。
ー頑張らない貴女は必要ない。頑張らないのなら、貴女のことを嫌いになるわー
そんな、そんな本音が聞こえてくるかのような笑みだった。
私頑張ったよ?嫌われないように、いつもいつも頑張ってたよ?
頑張りはいつしか「当たり前」に姿を変え、私の本当は彼方に姿を消した。
いつもそうだった。母の期待に応えることだけが、私の全てだった。
「いい子って、何?」
これは最終通告だ。自分への、そして世界への。
神はもういない。時代は変わった。
朝日に照らされて煌めくナイフだけが、今の私の全てだ。
「貴女にとっての神はもういない。私にとっての神ももういない。…もう、頑張れないよ」
さようなら、と呟いて私は目を閉じた。
私にとっての神を、この手で殺す為に。
(fin.)
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