哀れむ少女2 | ナノ




だって、そうでしょう?こんな私のことを何事もなかったかのように「分かる」と言い放ったんですよ。
彼女はあのね、という前置きに続き「世界はね、黒く塗られているの」と泣きそうな表情を浮かべて言いました。

「絵の具で例えても分かるように、黒の上から白で塗りつぶしてももう取り返しがつかないのよ。灰色は、もう白には成り得ない。どうしたって、白より黒の方が勝ってしまうでしょう?」

私は感激…、ではありません。激しい感銘を受けました。
その理由は極めて簡単です。
彼女が述べたことは、私が感じ取っていたことと同質だったのです。彼女の述べた比喩は、私の心の生き写しでした。


…私の世界は嘗て「白」でした。
しかし、汚れのない無垢な「白」は私が成長するにつれ、その純白さを失っていきました。
世間一般ではそのことを「大人になる」と表現するようですが、当時の私には皆目理解の及ばない事象でした。
裏切り、絶望、嫉妬…周りを省みない渇望も、世界を汚す妨げでしかありません。
それらを目にする度に、人間の咎を示されているかのようで心に鋭利な棘が刺さる思いでした。 そして行き場を無くした私の中の「黒」は己の脳裏で哀れみへと変遷してゆき、黒の世界に染まりたくなかった私は「黒」と「哀れみ」を入れ替えたのです。

―知ってしまいました。

彼女の言葉によって、何故私が哀れむのかを理解してしまいました。
彼女は私が今まで言葉に出来ず、仕舞い込んでいた事柄を言葉へと変える鍵を、開けてしまったのです。

「黒になりたくないの…」

気が付くと、私はポツリと呟いていました。
黒になりたくない、つまりは大人になることが怖かったのです。
大人の世界で、私という存在が黒く塗り潰されてしまうのが恐ろしかったのです。
私は、必死に生きている人達を哀れんでいたのではなく、その人達の汚い部分を見たくなかったんだ…
劣っていると見なしていたのではなく、そう感じることで「汚い部分は私には存在しない!」と心の奥底で叫んでいたんだ…
そのことに気が付いた時、私が今まで哀れみだと思っていたことが哀れみでないことは自明となりました。
どうして私は、今までこんな簡単なことに気がつけなかったのでしょう?
何故、十六年間も自分のことすら理解出来なかったのでしょう?

「貴方、大人になるのが怖いの?」

己の感情の意味に気が付き呆然としている私の前で、彼女は私の心を見透かしたかのように静かに言いました。
彼女の声は決して大きい訳ではなかったのに、周りを畏怖するかのような、不思議でよく通る声でした。

「…怖いのね?貴方の目を見ればよく分かるわ。何、別に『大人になりたくないだなんておかしいわ』なんて言うつもりは全くないのよ?ただ、貴方の姿を見ていたら私と重なってしまっただけ。だから、ね。私と一緒に着いてきて欲しい場所があるの」










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