哀れむ少女 | ナノ

哀れむ少女



1―1 過去



哀れむことが、私でした。
当時の私は哀れむことで自分でいることが出来たのかもしれません…きっと、そうなのでしょう。


私は、物心付く頃から何かに必死に打ち込む人間や、またそれらと同質の事柄にその感情を抱いていました。
何かにつけて「可哀想」という感情が優先してしまうのです。
哀れむ以外の感情(例えば尊敬や憧れ)を持とうとしたこともありましたが、私の心はそのことを許しませんでした。

私は他人に自らを推薦出来る程、何かに秀でていた訳ではありません。
勿論、物事を上から見下ろせる程高尚な人間であった訳でもありません。
にも関わらず周りに存在するものを哀れと感じることで安心感を得―いわば、心の一部が欠落してしまったかのような、尺度の狭い少女でした。

そのことを私がはっきりと自覚したのは、高校一年の夏のことでした。
湿気を含んだ暑苦しい空気は私達を包み込み、「夏はここにいるよ」と囁いているかのようでした。
私は夏は嫌いでは無かったのですが、これといって好きだった訳でもなく、まるで生きようともがくかのような蝉の鳴き声や、汗を振り乱しながら運動部に従事する少年、少女達に対し「哀れ」という感情を心に秘めていました。
そして、いつもと変わらず周りの世界から一歩立ち退き私にしか見えない線を引くことで、「私」を保っていたのです。


もうそろそろ、分かっていただけたでしょうか。
私は、普通ではありませんでした。否、普通というのがどのようなことを指すのか、今でも完全には理解していないのですが。
幼少期に遡り、自らの過去を振り返ってみてもそれといって特異なことは見あたりません。
それなりに裕福な家庭で育ち、年の離れた面倒見の良い兄はいつも私に目をかけてくれました。
―ごく一般的な家庭に育った平凡な少女ー当時の私のことを表象してくれる言葉があるならば、それ以外あり得ないでしょう。


さて、話を戻しましょうか。

その夏、私の前にある少女が現れました。
転校生として同じクラスに転校してきた彼女を、私は手に取るかのように覚えています…忘れるはずが、ないのですけどね。
名前を「百合」という彼女は高校一年で十六歳、勿論私と同じ年齢だったのにも関わらず、世界の汚い部分を全て取り組んでしまったかのような「黒」を持ち合わせておりました。
分かりにくい表現ですが、それ以外に言葉が見当たりません。分かりやすく言えば、子供らしさが微塵も感じられなかったのです。
妙に大人びていたと言いますか、表情に見え隠れする思慮深さの中に「陰り」が見えたのです。ふわりと靡く漆黒の長い髪はそんな彼女を体言しているかのようでした。私は彼女を初見した際、なぜだか目を反らしてしまいたい衝動に駆られたのですが、彼女の笑みが感嘆する程に可愛らしく天使のようであったので気が付くと彼女に惹かれていました。
「惹かれて」しまった私は彼女に言いようのない興味を抱き、声を掛けるという決断を下しました。
実際話を交わしてみると、彼女が私を引きつける「何か」を持っていることは明確になりました。
その何かが何なのかを求めたくなり、更に私は彼女への興味を強めたのです。


「私は貴方が到底理解出来ないような人間なの。哀れむことを止められない私は、むしろ哀れまれるべき存在なのかもね」


ある時、私は彼女へそう述べました。
私がそのようなことを誰かに伝えたのは初めてだったので、自分自身、己に驚きを隠せませんでした。
しかし、私の心は「彼女にならどんな不埒なことも言っていいんだよ」と黙示した為、それに従うことにしたのです。


「貴方はとても変だけど、そんな貴方の気持ちが私には分かるわ」

彼女は、年齢に似合わぬ大人びた微笑を湛えながらそっと呟きました。
私は「分かるってどういう意味?」とすぐに彼女へ聞き返しました。







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