同じ道を辿っていた筈なのに、気がついた時にはもう道は二つに別れていた。
気がつくのが遅すぎた、遅すぎたのだ。そんなことは言われなくとも分かっている。
僕らは同等の一直線上に身を委ねていた。 線は曲がることはなく、綺麗な直線を描いていた。
…だから、僕は疑わなかったんだ。自分のいる場所が本来は己に不釣り合いだってことを。
少し考えれば自明のことであるのに、直線ばかりに目がいって気がつく過程を脇道に置いてきてしまった。
「綺麗な直線なんて…馬鹿げてる。そんな 空想の“偽物”があるわけないだろ?」
そう自嘲すると、「あるわけないと分かっているのに、じゃあどうしてこんなことになったのさ」と胸の奥にちりばめられていた思いが一つにまとまって、鋭利なものとなった。
楽しかった?笑っていた?
ああ、そうだよ。
君と一緒に過ごした時がつまらない訳がないだろう?君と出会ったことで僕は綺麗な道を歩めるんじゃないか、って淡い期待を抱いていたんだ。 期待を抱くくらいならいいのかな、そう思っていたんだよ。
期待。
馬鹿げてる。自分が置かれた状況を、幸せだと信じ込んだ。
ただの自惚れだっていうのに。そして、自分が自惚れていたことに気がつかなかったことが一番の自惚れ。
多分、そうだ。
鋏が入れられた髪は僕の視界を隠さない。視界がよくなった分だけ、以前よりはっきりと色々なものがよく見える。
享楽も、絶望も…全部全部まとめてさ。
君がいるのならその笑顔に享楽を重ね合わせて僕は笑うんだろうけど、もう消えて無くなった幻想は幻想以外には成れないから。
頬につたう涙は君がいないことへの涙?それとも後悔の涙?
「ごめんね、エリオット」
僕はこれから享楽を捨て、奈落の道を歩むことに決めた。選択肢の存在しない決定事項によって。
だからどうか… こんな僕の姿を見ずに済むように、君は早く違う人間に生まれ変わってしまえばいい。
ポツリ。
ポツリ。
ポツリ。
涙の音。悲しみの音。
音は終わりなき連鎖を紡いでいった。
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