僕は嫌いになんて、ならないですよ | ナノ


僕は嫌いになんて、ならないですよ




「………優李、ごめんね?」


春乃様は僕の姿を捉えるなり、本当に申し訳なさそうな口調でそう言った。

間違いなく春乃様、なんだけど。
そうなんだけど、見た目が別人すぎて思わず目をぱちくりしてしまう。


群青色と夜空を織り交ぜたような瞳に、宇宙を散りばめたかのような瞳孔が少しだけ揺れている。
手触りのよさそうな漆黒の髪は、窓の外から差し込む朝日に照らされて瑠璃色にきらっと光った。


神秘的なものって、こういうことを言うんじゃないかと思う。
まさか、春乃様がここまで綺麗…。ううん、到底綺麗の一言では言い表せないけれど…、だとは思わなかったけれど、彼が何かを隠したがっていることには気が付いていた。


「ゆうゆう〜いつもありがとね〜」


いつものような口調で僕に声をかける春乃様は、ニコニコと笑っていた。彼が笑っていない時なんてなかった。


僕は、春乃様のことを尊敬している。
だからこそ、彼のことを慕い、着いて行こうと心に強く誓った。

この女みたいな容姿のせいで皆から好奇の視線を寄せられていた僕に「せっかくそんなに可愛いんだから、自分のことを好きになってあげなよ?」と声を掛けてくれたのは、紛れもない彼だった。


その優しい瞳に、声色に、僕の心はギューッと締め付けられて苦しくなった。

嬉しかったんだ。
僕のことを肯定してもらえて。

春乃様は凄く凄く心の優しい持ち主なんだろうな、ってことはすぐに分かった。
皆への接し方でそれは嫌と言うほどに分かったし、「この人は絶対に他人を卑下したりしない。馬鹿にしたりしない」ということも確信した。

だけど、僕は春乃様の本心が分からなかった。
彼はいつも太陽のようにキラキラと輝いていて、皆の前で笑っていて。

けれど雲隠れした太陽のように、時々春乃様の表情が曇ることがあった。
多分春乃様は無意識だったんだろうけど、いつも笑っている人が見せる悲しそうな表情は、胸がズキンと痛んでしょうがなかった。


「…僕は、春乃様が何かを隠してるだろうってこと、分かってました」


春乃様の一縷様への衝撃的な告白の後、世界が終わったのでは?というくらいの沈黙が続いた。
一縷様が返事をした後は甘い甘いお菓子のような空気が二人を包み込んで、二人とも頬が薔薇のように真っ赤になって。
何も知らなかった自分が憎いけど、とにかく胸がきゅんきゅんした。


「……優李」


僕の名を呼ぶ声が、静かに教室内に響き渡る。
それはとても美しくて、人を魅了して離さない声だった。


「春乃様…綺麗ですね」


僕は微笑んだ。
シーンとした空間の中で、僕達の声だけが浮き立っている。


「…今まで騙してたみたいになってごめん…。あんなに慕ってくれてたのに」


ポツンポツンと小さく紡がれる言葉を聞きながら、僕は自分の目頭が熱くなるのを感じた。


「これが、本当の俺だよ。幻滅したよね…?嫌いになったよね…」


そう言うと、春乃様はふっと笑う。
パステルカラーの色合いが彼の周りを取り囲んでいるように感じられた。


「……僕は嫌いになんて、ならないですよ」


春乃様のことを嫌いになるわけがない。
僕にとって彼は憧れの対象で、尊敬の対象なんだ。
 

彼が笑顔でいられるように、僕はずっとずっと彼を支えていきたい。
それが僕の役割だから。


「…改めて、宜しくお願いしますね。春乃様」



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