深淵






僕らが過ごした刹那の時も
全てを飲み込む深淵に消えゆく
己の業から救われないのならば
僕はどうなってしまうんだろう―――?




立ち込める血の匂い。
そして目の前には―――


ああ、僕のせいか。
今、目の前に広がる光景を見て僕はそう思う。

思い出したくない記憶が映像のように流れ出す―。


「名前を呼べ―エリオット―」


あの時僕はそう叫んだ


僕に話しかける声は、止まることはない。
やめてくれ、そう思っても終わることはなく苦しみは更に棘を纏ってゆく。
まるで闇に誘うように。

考えたくない現実を、今まで背いていた現実を、僕は受け止めなければならないのか?



僕は、
僕は………!


―ハンプティダンプティ―
突然脳裏に浮かんだ言葉をエリオット、君に――



泣いても泣いても涙が途切れることはない。止まることなく溢れ出してくる悲しみの感情は僕の心を支配する。


エリオットが死んだのは僕のせいなんだ。
もし、僕が君と出会っていなければ君はこんなことにはならなかったはずだ。
そう、全ては己の業から逃げ続けた僕のせい―



ごめん―エリオット―



「わるい リーオ」


目の前にいる彼はエリオットの最後の言葉を僕に告げた。
エリオット…何故君は僕なんかを心配するんだ?


君は…、君は死ぬ寸前までそんなことを考えていたのか?


どうして……



彼も自分がいたせいで大切なものを傷つけた。
こんな僕でも必要とする人がいるのなら…


そして、嘆いても背いても逃れられない業ならば―


「僕は運命を受け入れよう…」


見える世界も、聞こえる声も、全て受け入れてやる。


大切なものを失った今、これ以上に何かを失うことなどないのだから―




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