私と僕【I and I】




一週間程の間、熱は下がらなかった。
全身の関節がズキズキと痛んで、食事さえまともに取ることが出来なかった。恐らく、産まれてから一番の高熱だったのだと思う。

目が覚めると自分と同じ顔が私の顔を覗き込んでいて、一瞬頭がおかしくなってしまったのかと焦った。
ぐるりと周りを見渡すと見たことのない部屋に自分がいることが分かって、思わず起きあがろうとしてしまった――のだが、あまりの高熱に起き上がることさえ困難だった。

「…ああっ、駄目だって。寝てなきゃ」

花宮の声がして初めて、自分がどこにいるのかが分かった。
ここは花宮の自宅で、倒れた私は彼に助けられたのだということが。

「倒れる前に会えてよかったよ。街中でぶっ倒れられたら、どうしようもなかったもん。とりあえず、薬局で薬買ってきたから飲んで?しんどいでしょ」

「はい」と白い錠剤とコップに入った水を差し出され、ゆっくりとそれらを体内に流し込む。水の潤いが、今はとてもありがたく感じられた。

「……ありがとう…、ございます」

実の兄弟に敬語を使うなんておかしなことに違いない、と思いつつも他人行儀になってしまうのは言わばしょうがないことだった。普通に話す、という行為が私にとっては難しいことなのだ。

「ちょっと樹ー!俺達兄弟なんだよ?敬語はやめてよ!超他人行儀で悲しくなるじゃん!」

「……すみません」

「…もしかして、フランクに誰かと話したことないの?友達と馬鹿やったり、どうしようもない話で盛り上がったり。そういうこと、しないで生きてきたの?」

しないで、というより知る余地がなかったのだと脳裏で呟く。
普通の人間が普通にしていることを、何も知らないまま大人になってしまった。
聞き分けのいい、面白みの何もない優等生。それだけが、今の私を形作っている。

「…物心ついてから、ずっとこうだったんです。他人と一線を引いて、表面上だけで接してきて…。勉強が出来ることだけが私の価値なんです。あなたとは違うんだ…」

「違くないよ」と花宮は語気強く言った。

「ならこれから、楽しく生きてこうよ。今まで楽しめなかった分を、俺と一緒に取り戻そうよ。やっと会えたんだからさ。いきなりは無理でも、徐々に変えていけばいい。そうでしょ?まず当面の目標は俺の前で敬語をやめること!分かったら今日は何も考えずに寝る!」

「…えっ、…」

戸惑いを隠せない私を、花宮は無理やりベッドに押し込む。

「そうだ、名前だけはちゃんと翔って呼んで。花宮さん、とか言われたら悲しくて泣いちゃうから」

「……翔…?」

「ははっ、何で疑問系なの」

心がむず痒くなる。
花宮…、翔と普通に話せていることに。止まっていた時が再び秒針を刻み始めたことに。

額に濡らしたタオルを乗せられ、火照る熱が少しだけ弱まった気がする。
「おやすみ」と小さな声で翔に囁かれ、私は静かに目を閉じた。



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