自己存在【true】




真っ暗闇の窓の外からは小さな光が部屋の中に差し込む。
それが月明かりなのか、それとも他人の家から漏れ出す光なのか、そんなものはどうでもよかった。
淫らに喘ぐ自分自身が、光のせいで雨谷に見えているのだと思うと羞恥心が身体中を旋回した。

手首をそっと放され一息ついたのも束の間、皮膚に張り付いて固く湿ったズボンを一瞬にして引きずり下ろされた。
下肢が露わになっているのは勿論のこと、蓄えられた熱が今すぐにでも張り裂けてしまいそうな性器が晒されてしまったことに激しい焦りを覚える。

「…っ、……あ、……やだ…」

…見ないで欲しい。
崩壊寸前の私を、そんな憂いに満ちた瞳で見つめないで。
お願いだから、嫌いにならないで。

「…やだ、じゃねえよ」

甘い声色でそう囁かれ、まるで魔法にかけられたように指先も腕も足先も…。全ての部位が硬直した。ふいに体の内部に異物が入り込んでくる感覚に襲われ、内臓にズンと鋭利な痛みが突き刺さる。

無意識に「ひぅ」という情けない声が出てしまったことに気がつかない程に、内部をこじ開けられる衝撃は凄まじかった。
固くて狭い箇所に自分ものではない指が入り込んでいるなんて、到底信じることが出来なかった。

思わず雨谷のシャツを強い力で握る。
「母さんから愛されなくても僕は消えない?」と口に出そうと思ったけれど、雨谷から返ってくる言葉はとうに分かっていた。

最初から、理解していた。
別に母から愛されなくたって、私は消えないということを。母から愛されなくても、ほんの少しの愛情が自分の中から消えるだけで、私に愛を与えてくれる人は他にもいると。

きっと彼ならば、「消える訳ないだろ」と言ってくれるだろう。
偽物の愛の為に自分を捨てる必要なんて全くない。温かな本物の愛の為に偽りない本当の多田はあるんだろ?って。

「…もう一本、入れるぞ」

彼はそう言うや否や、ヒクヒクと痙攣する内部に先程よりと勢いよく指を滑り込ませてきた。じゅぷ、という淫靡な音が自分の性器から聞こえてきて、恥ずかしさの塊が頬にせり上がる。

「……ひっ、……あぁ……」

痛くて、けれども痛みの中に快感が伴っているのも事実で、意識の糸がプチンと途切れてしまいそうになる。内臓と直腸を掴まれて、ビリビリとした痺れが身体中に遍く走る感覚。
掴んだシャツは既にしわくちゃになっていて、掌には大量の冷や汗と雨粒が混ざり合っていた。

「…気持ちいい?」

…分からない。痛くて堪らないし、消えたい程に恥ずかしい。
指が引き抜かれたことが分かった瞬間、雨谷の瞳が私の瞳をしっかりと捉えていることが分かり、恥ずかしさに耐えられなくなった私は両手で顔を覆い隠す。

「……ゃ、…やだ……」

一体次は何が起こるのか。
これ以上めちゃくちゃにされてしまったら、完全に壊れてしまうのではないか?という恐怖症が指先をガタガタと震えさせた。

堅く閉じていた瞳を意を決してゆっくりと開けると、指の隙間からがっしりとした肉体と、大きく膨張した性器がはっきりと見えた。
この時ばかりは雨谷のことを怖い、と思った。彼は同じ人間なのに到底そうとは思えなくて、理性を失った野生動物のようにしか感じられない。
実際理性を失っているのは私の方なのに、ここから逃げ出したい気持ちに駆られる。



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