Rain【雨降る夜】




好きという感情よりも、「愛を与えてやりたい」という感情が真っ先に俺の心に浮かんだ。それが恋愛感情なのか、そうではないのかもよく分からなかった。

甘酸っぱくて愛しいものが恋愛なのだとしたら、これは恋愛ではないだろう。
今ここにあるのは悲しき欲望と、激しい使命感だけだ。

数多ものキスを痛々しい傷跡に落とした。幾度となく多田の潤んだ瞳と目が合い、小さな唇からは扇情的な吐息が漏れ出した。

窓の外から差し込む微かな光が俺達を照らす。
押さえ込んでいた手首をそっと解放すると、間髪を入れずに雨に濡れて皮膚に張り付いたズボンを引きずり下ろす。

「……っ、……あ、…やだ……」

再び手首を掴まれそうになったけれど、「…やだ、じゃねえよ」と彼の耳元に口付けをした。
俺は眼下に見える汚れなき恥部にそっと手をあてがうと、躊躇いながらもゆっくりと指を中に潜り込ませる。

「…ひぅ、」

指を挿入した瞬間、多田の口から小さな呻き声が零れた。
震えた手は俺のシャツを健気に掴んできて、俺はその愛らしさに心を射止められる。
狭くて固いそこは、指一本入れるのが精一杯だった。
痛みを伴わないよう出来るだけゆっくりと指を内部に滑らせると、くちゅ、という淫靡な音がした。

「…もう一本、入れるぞ」

「入れていいか?」ではなく決定事項の如く「入れるぞ」と言ったのは、多田を快楽の果てに溺れさせたいと思ったからだ。

二本目の指を熱くビクつく体内へと先程より勢いよく滑り込ませた。
今まで何も受け入れたことのないそこは指一本でもキツくて精一杯だったのに、更に押し広められたせいでヒクヒクと痙攣する。

「……ひっ、……あぁ……」

快感を激しく感じるであろう箇所にぐるりと指で弧を描くと、多田の腰は厭らしく跳ね上がった。

「…気持ちいい?」

ぼそりと呟いてからゆっくりと指を引き抜く。
粘着質の透明な液体からじゅぷ、と淫らな音がしたと共に、多田は両手で真っ赤になった顔を覆った。

「……ゃ、……やだ……」

いじらしい声を無視し、俺は額に伝う雫を拭うと氷のようになってしまった指先をガタガタと震わせながらシャツを脱いでいく。
意識をほんの少し現実へと引き戻すと、冷え切った外気に長いこと晒された身体が限界に達しそうなことが分かる。こんな寒い冬の時期に水浸しになったのだから、意識が覚束ないくらい身体が冷えるのも当然だ。

…お願いだ。熱が、欲しい。
張り裂けて溢れんばかりの熱を感じたい。

ズボンを脱ぎかけている最中に、体の中心からジワッと猛り狂う熱が放出されるのを感じた。太腿の付け根に集う熱の塊が今にも爆発しそうになって、先走りがツーーっと先端の割れ目から零れる。

快感に支配されて理性も感情もどうにかなってしまいそうだ。
いいや、もうとうにおかしくなっているのか。
指の隙間から生々しい性器を垣間見た多田の瞳は、零れ落ちんばかりに大きく見開かれた。

「……やだ……っ、…こわい…っ…!」

号泣しながら大きく叫んだ彼は、持ち合わせてるいるであろう目一杯の力を込めてドンっ、と俺の突き放した。
あの夏合宿の時と全く同じような状況に陥り、「このままだと多田に逃げられてしまう」という危惧感が全身を旋回する。

ふいに、多田のシャツの胸ポケットから何かがコロン、と床に落ちる音がした。
堅い陶器か何かがぶつかったのか?と思い音がした方向に目を見やると、何かがキラキラと光ったのが分かった。

―これは、ビー玉…?

眼下に煌めく小さな丸形の物体は、薄暗い空間でも透き通る雨色の輝きを放ちながらベッドの柱にぶつかった。



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