りうる光



Eliot side




黄金にまみえる広い広い世界の中でオレはお前を見つけた。
その姿は誰も寄せ付けないような、まるで全て飲み込む深淵みたいで―
オレの知る姿とは違かったんだ。


「エリオット…?」


その過疎簿い声はオレのよく知る声…


「悪かったな、リーオ」


オレは無意識にそんな言葉を発していた。
肩にうずくめられた、今にも泣き出しそうな、どうしようもない孤独と戦ってきたようなその顔を見てオレはそれしか言えなかった。


「どうして…っ…君がここにいるんだ…君は…僕のせいで家族も、あげくの果てには自分の命さえ失って…
僕のことを憎んでも憎んでも憎み足りないだろう?」


自嘲ともとれる浅はかな笑いをたたえながらリーオはオレにそう告げる。
きちんと目にするのは初めてのその瞳は、「オレの知っているリーオではない」ということの表れだった。


…オレには…お前の過去も、気持ちも、そして「今」だって分からない。
でも―これだけは分かるんだ。


お前が我を忘れるほど、自分を責めているってことは―


「何言ってんだリーオ…
オレがお前を憎むと?…笑わせるじゃねぇか。オレがああしたのは自分の意志だ。
「オレはオレでいる」―そう誓ったからな…それにオレは今まで一度たりともお前を憎んだことなんてない―
それはこれからもずっと変わらねえ。
…だからリーオ…お前は自分を責めるな。お前はいつ自分の命を自分で切り捨てられるほど偉くなったんだよ?
言っとくけどな、お前の主は永遠に「エリオット=ナイトレイ」ただ一人だ。」


「エリオットのバカ…」


今まで抱え込んできたものが溢れだしたかのように俯きながらリーオがいう。


「自分を恨まないことなんて、出来るはずがないじゃないか。僕はもう誰かを、自分を、憎む「こと」しかできないんだ…
それに…僕は…もう僕は…エリオットが知る僕じゃない。」


―リーオ―お前はなんて悲しい眼をしてるんだ―

オレはお前をこうするためにお前と出会ったんじゃない―


「だからなんだ?お前がオレの知るリーオじゃないことの何が問題なんだよ?お前はお前オレにとっての“リーオ”は何も変わらない。
それでいいじゃねえか。あぁ、もう…お前の顔なんて見るの初めてだから落ち着かねぇ…」

目の前にいるリーオは服も髪もぼろぼろで、今にも倒れてしまいそうだった。

―オレのよく知る服、よく知る声なのにまるで別人じゃないか…―


「……変わらないね、エリオットは。君はいつだってそうだ。僕は、こんなにも人を傷つけて、大切なものを壊したのに…
君がいないこの世界で僕が唯一生きていく道は誰かに懇願されることしかないんだ…
求められて、望みを見つけて、手にいれようとしたけど…」


…なんだってんだ……
傷つけた?壊した?そんなもの…


「今からでも何とでもなるじゃねえか!お前は生きてんだろ?だったら…いくらだって道なんて変えられるはずだ…そうだろ?
お前の主として言わせてもらうぞ、リーオ。…お前は、生きろ」


リーオがはっとしたように顔を上げる。


「オレは、ベザリウスのこともまだ何もケリをつけられてねえ。
だからリーオ、お前には後悔してしてほしくないんだ。それに、あのチビを一人にしてどうすんだよ?」


リーオは半ば諦めたような、希望のないような顔をしてからこう言った。


「オズ君…彼と僕は敵対する存在なんだよ?
エリオット、彼はジャック=ベザリウスの魂を継いでいる存在、そして僕は―グレン=バスカヴィルの魂を継ぐ存在だ。
ジャックは…ジャック=ベザリウスはグレンのことを「邪魔」と思っているんだ。僕は“殺される”存在でしかないわけだ。そんな僕らがどうしろって…」


グレン=バスカヴィル。

その名を聞いて、分かった気がした。
お前が背負ってきたものの大きさが。世界を見たがらなかった理由が。


お前はずっと誰とも共有できない世界を一人で生きてきたのか。
誰にも言えずに、一人で抱え込んで。

そこでオレは気づく。


…言えるはずない。パンドラと繋がってるオレにそんなこと言えるはずがないんだ。
…それに信じてもらえなかっただろう。突き放された、否定された、だからお前は―


「分かっただろう?
今の僕はエリオットの知る僕じゃない。グレンの名を聞いて失望したはずだ…」



リーオの目から、一筋の涙が流れた。




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