Rain【雨降る夜】




『今日の星座占い!…双子座のあなたは恋愛で大波乱の予感!恋に悩まされて頭が痛くなるかも…恋愛以外にも重大なことが起きそう!……次は乙女座の…… 』

テレビから流れてくる星座占いのナレーションに、俺は思わず耳を傾ける。

花宮と別れた後、悩める頭を抱えて重い足取りで家に辿り着いた俺は即座にベッドにダイブした。
とにかく悩む案件が多すぎるのだ。花宮に本気で告白されるし、冗談抜きで花宮と多田は双子だったし、多田は莫大な問題を抱えてるっぽいし…。

「…はあー……、人生最大の難関………。あーーー、やべえ…」

毛布に顔を埋めながら誰に向けるでもない大きな独り言を言うと、俺は目を閉じた。
脳裏から多田の泣きはらした顔が消えることはなく、ことある毎にその顔がありありと思い出される。

柔和な笑みに隠された深い悲しみを、何故誰も気がつかないのだろう。
目からではなく心から涙がポタポタと流れ出していることに、どうして気がつかないんだ…。

「このままじゃ、アイツ…」

言葉を言いかけた時、窓の外から雨がポツポツ、とコンクリートに落ちて跳ねる音が微かに聞こえた。
暫くの間静かに耳を澄ませていると、最初はポツポツ…、と小さな音だったそれは、息つく暇もなくザーザーと横殴りの雨の音へと変化した。

―さっきまであんなに晴れてたのに、急に雨?

天気予報でも見るか、とベッドからそろそろと起き上がると、またもや驚くべきことが起きた。

携帯のバイブ音が部屋中に鳴り響いたのだ。
机に響くバイブ音は、ブルルル、と誰かからの電話が来たことを知らせていた。
電話?一体誰だ?と思いながらディスプレイの表示を確認した瞬間、俺の心臓は張り裂けんばかりに高鳴った。

―多田樹。

まさかの人物に、俺は戸惑いを隠せない。確かにメアドを交換した時に電話番号も交換したけど、多田から電話がかかってくることなんてないと思っていた。

「…多田…?間違えてかけたのか…?」

ドクンドクンと脈打つ心音が掌にまで伝わってくる。
どうしよう、間違え電話にしても出ないとまずいよな?と思いながら、俺はそろーりとゆっくり「通話」の文字をタッチする。

「もしもし、…多田…?」

とりあえず電話をかけてきた相手が本当に多田なのか確かめようと思った俺は、そう言葉を紡いだ。

「…おーい、…もしもーし、……聞こえてるのか?」

暫く経っても受話口からは何も聞こえて来ず、シーーンという無音だけが耳に木霊する。

「おーい、多田?」

これで何も反応がなければ通話を一端切ろう、と思いながら俺は多田の名を呼ぶ。

『……て、……けて、』

「え……?ごめん、よく聞こえねえんだけど…」

人の声なのかどうかもよく分からない程の微かな音声が、無音だった空間から聞こえてきた。

「……多田、なのか…?」

外からザーザーと聞こえてくる雨の音と、受話口から聞こえてくるシーンという音が混ざり合って一体化する。
窓に目をやると、ガラスには幾重のも水滴が流れ落ちていた。それは斜めに弧を描きながら勢いよく下方へと流れ落ちていく。

『……お願い、助けて……』

はっきりと聞こえきたのは、掠れた多田の声だった。
あからさまに普通ではないその言葉と様子に、俺の鼓動は更に脈拍を早める。手にはじわっと冷や汗が滲み出して、指先は一瞬にして氷のように冷たくなった。

電話をかけて助けを求めるなんて、確実に何かがあったに決まっている。
今すぐに助けに行かなければ、という責務感が体中を支配した。

「おい…っ、大丈夫か?今どこにいるんだ?」

『……っ、……雨谷君………助けて……!』 

悲痛な叫び声が耳元に響いた。
喉元を締めて絞り出したかのような悲痛な声は、止まない雨の音さえも掻き消す。
それほどに、苦しげな声だった。

「おい多田……っ、今どこにいる?」

何秒かの沈黙の後、囁き声に近い小さな声で『…大学の、裏門のすぐそばに』と返答があった。
大学か。走っていけば十分もかからない。

「そのまま待ってろ!すぐに行くから…、いいな、動くなよ?」

俺は携帯を耳元から離すと、椅子にかかっていたコートを羽織りながら勢いよく外に飛び出した。



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