Rain【雨降る夜】




「とにかく、俺は雫月のことが好き。どうしてもちゃんと伝えたかったから、直接会う必要があったんだ。
すぐに返事をくれとは言わない。本気だって言って、雫月を困らせるだろう、ってのはよーく分かってたし。」

「…困るってか…焦ってるってか…なんつーか…とりあえず、考えさせてくれ。俺なりにちゃんと向き合うから」

ほろ苦いコーヒーを一口飲んでから、俺は途切れ途切れの言葉を紡いだ。

「うん。ありがとう。もし雫月にめっちゃ可愛い彼女がいたら諦めてたのかもしれないけど、今フリーなんでしょ?そう思ったら我慢出来なくなっちゃった」

「…え、俺いつフリーなんて言った?そんなこと言ったか?」

ヤバい。全く記憶にない。
確かに今俺に彼女はいないけど、そのことを花宮に伝えた記憶はないのだが?

「ああ、そっか…。あのとき超酔っぱらってたから覚えてないのか!女の気持ちが分かんねーー、かれこれ半年彼女いねえーー、って俺の部屋でぼやいてた癖にね?いやー、あれは面白かった」

クスクスと笑いながら俺を見つめる花宮は、まるでいたずらっ子のようだった。

「…っ、全然覚えてねえ…。マジかよ…」

俺は「はあ…」とうなだれながら両手で顔を覆う。
指の隙間から木目調の机をぼんやりと見つめながら、恥ずかしさで頭の中がいっぱいになるのを感じた。

「―でね、雫月。もう一つ話があるんだ。割と重大な話。」

「なんだ?」

店内のBGMに混ざって凛とした真剣な声が聞こえてきて、俺はゆっくりと覆っていた両手を顔から離した。

「俺と樹の話。てか、それしかないでしょ?雫月だってそれを話されると思って来たんじゃないの?」

花宮が言う通りである。
微かな期待は抱いていたけど、これは花宮の口から真実を聞けるって期待していいのか…?

「…はい、これ。」

彼は黒のボディバッグからごそごそと一枚の写真?を取り出すと、それを俺の前に差し出した。ちょうど空調の真下に座っている俺の手元に渡された写真は、ひらひらと小さく風に揺られる。

―小さな少年二人と、その両親。
目にさっと飛び込んできたのは、幸せそうな家族の写真だった。
そっくりな顔をした恐らく三、四才の少年二人は、一人が満面の笑みを浮かべて、もう一人が恥ずかしそうにギュッと唇を噛んで俯いている。

彼らの両脇に立つ父親と母親は、一目で多田と花宮の両親だということが分かった。
茶褐色の細アーモンド型の瞳は父親譲りで、形のいい鼻と桜色の唇は母親譲りなのだろう。双方のいい所を受け継いだからこそ、これほどまでに容姿の整った人間が生まれたのか、と俺は関心してしまった。

「花宮と、多田…?つーか…やっぱりガチの双子…?」

「いやあね、まさかとは思ったけどマジだったんだな…それが。
親父に問いただしてみたら、そうだよ、だって。意味分かんないよな。離婚して、俺達は引き離されてはいサヨナラって感じ?小説かっつーの」

花宮はそう言うと、黙りこくってしまった。

否応なしに蔓延する深刻な雰囲気が、言いようのない居心地の悪さを与える。
どうしよう、俺はなんて言ったらいい?ぶっちゃけ驚き過ぎて的確な言葉が全く思い浮かばない。予想はしてたけど、「まさか」とは思ったけど、嘘だろ?



[46]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -