Rain【雨降る夜】





「俺、やっぱり雫月が好きなんだよね。色々考えたけど、気持ちは変わんないし」

白い蒸気が上がる紅茶を啜りながら花宮は困ったように言った。

「…今まで男を好きになったこともあったけど、ここまで惹きつけられたことはなかった。世間一般的に見て男同士ってやっぱり差別されたりするし?皆、普通が好きだもんね。だから出来るだけ女の子と付き合うようにしてたんだけど。今回だけは俺、マジだから」

カフェで花宮と会うことになった経緯は大したものではない。
花宮から突然「話したいことがあるんだけど」とメールが届いて、俺もも多田のことですっげえもやもや悩んでたし、もしかしたら花宮は多田との事実を知ったのかもしれないし…と、まあとにかく色々と気になることがあったので、即誘いを承諾したのだった。

それがなぜか、俺は今花宮から告白をされている。
酒酔いして介抱された日に一度冗談っぽく「好き」だとは言われたけど、花宮はチャラチャラして何も深いことを考えてなさそうだから(偏見)、ただの冗談だと思ってた。

「花宮、それ本気で言ってる?」

「本気も本気。ここ数日間悩みすぎて寝れなくなったくらいには本気だよ。」

コトン、とティーカップを机に置きながら彼は俺の瞳をじっと見つめた。

「…何で俺だったんだ…?花宮くらい容姿が整ってたら、いくらでも言い寄ってくる人がいるだろ。何もあえて俺を選ばなくても」

「―俺は、雫月が好きなんだ。他の人が俺のことをどう思おうと関係ない。俺は、自分の意志を突き通すだけだから」

真剣な表情を浮かべてきっぱりと言い切る彼を見たとき、「この気持ちを弄んじゃいけない」と思った。

「よく考えたらさ、初対面は酔っぱらってたし…介抱はして貰うしで好きになってもらう要素ねえじゃん。俺のどこがいいの?」

「うーん、恋するのに明確な理由はいらないと思うけど。…ビビビっと来たっていうのと、あとさ、」

そう言うと花宮は言葉を止めた。

「雫月は馬鹿にしなかったじゃん。俺がバンドやってるって言っても。…学校に進学しないでバンド活動なんて、しかも売れてないバンドだってなれば尚更馬鹿にしたくもなるんだろうね。ぶっちゃけると大学に進学した友達とかには、結構呆れられたりしててさ」

「何で馬鹿にしなきゃいけねえの。好きなことに向かって全力で頑張ってる奴に呆れる訳ねえじゃん…?寧ろ俺は、花宮が羨ましいと思ったけどな。あそこまで自分を輝かせて、すっげえ人生を謳歌してるって感じでさ」

思ったことをそのまま口にしただけなのに、花宮は心底嬉しそうな表情をキラキラと浮かべた。

「俺は、雫月のそういう所が好きなんだ。社会のフィルターを通して物事を見ないところがね」

世間一般的に見て―、とか皆がこうだから―、とか。そんなものは俺にとってどうだっていい。
自分の人生なんだから自分の好きな風に生きればいいと思うし、それをとやかく他人に否定される筋合いはない。人生は自分自身の所有物なんだから、楽しむ義務があるはずだ。



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