Nothing,but there is anything






―お互いがお互いを傷つけあうこともない―



これは、そんな安息の時の一場面―




「おい!起きろチビ!」


葉々が重なりあう音に乗じるように、木漏れ日がオレの顔を照らす。感じるのは自然の趣、陽だまりの暖かさ。
やけに心地よい空間にいたオレは彼の言葉でそこから追い出された。


―あれ、オレどうしたんだっけ―
―ああそっか。オレ、エリオット逹と…―


意識が朦朧としながら目を覚ますと、オレに目を向けているエリオットと目が合った。彼の隣には、もちろんリーオもいる。


「やっと起きたか…お前は随分とお気楽だな。いくらお茶会の場だからといって緊張感が無さすぎじゃねえか?」


「まーまーそんなに怒るなって。それにエリオットだってさっきうとうとしてたじゃんねー」

そう言われたエリオットは“痛いところを突かれた”と言わんばかりに顔をひきつらせた。


「う、うるせぇ!早く行くぞ、リーオ」


「はいはい。エリオット」


―「行く」と言ってもお茶を取りに行くだけだろうな…―


オレの耳に聞こえてくるのは響き渡る幸せな喧騒、見えるのは晴れ渡った空。
要するに、お茶会日和だ。


「うむ、お茶が飲みたいぞ!」と突然言い出したアリスに半ば賛成する形でオレはお茶会への参加を決めた。
当の本人は椅子を陣取って足をくみながらおいしそうに、そして幸せそうにお菓子をむしゃむしゃ食べているが。


―規模も決して大きい訳でもないし、大それたことでもないのに…―

―こんなにも気持ちいいのはなぜだろう―


「おいチビ。お前の分も持ってきてやったぞ」


ふと振り返るとエリオットがお茶を両手に持って、その片方をオレの方へ差し出していた。

―なんだよ…やっぱり優しいじゃんか…―


「何にやにやしてんだよ、気持ち悪ぃ」


「いや、やっぱりさ、エリオットは優しいんだなーと思って」


そう言ったオレを見て、エリオットは最初こそ何か言いたげな顔をしていたが「お前は…」
と言ったところで言葉を止めた。


「照れてる。照れてる。」


エリオットを見上げるようにしてしゃがみこんだリーオが彼らしい口調でそう言葉をもらす。


「っ!うるせぇ!リーオ!」


もはや“通例”とも言えるそのやり取りを見て、何故だかオレの頬は更に緩んでしまう。


「ありがとな。エリオット」


「…もう、いい…」


そっぽを向くエリオットも、それを楽しそうに見つめるリーオも、オレにとってはそれが“日常”なんだ。
この日常が“非日常”になるときが来なければいいと心からそう願ってやまないけど―。


―けど。
「いつかはそうなってしまうのだろうか」とオレは皮肉にも思ってしまう。


「何だよ…いきなり黙りこんで」


「いや、なんでもない」


考えると、日常なんて仮面を被った偽りの世界なのかもしれない。
オレが今いる“ココ”は虚構で埋め尽くされている世界の断片に過ぎないのかもしれない。


でも…でも…、


「今」を大切にすることのほうが大事なんじゃないか?
彼らとの時間を共有することのほうがオレにとってはよっぽど幸せだ。



そう。―幸せなんだ。


「うえーエリオット。このお茶、にがいよ?」


「お前はいちいち文句を言うんじゃねえ!!」


オレの心がこんなにも満たされているのは…



―それは多分、「彼ら」のおかげ―




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