tears【涙】




―こいつら、絶対付き合ってるだろ…!

二人を取り囲む雰囲気だったり、紡がれる言葉の一つ一つだったり、相手に対する反応だったり。その全てが普通の友達に対してのものじゃない。これは、愛する恋人に対してなされる行動そのものだ。

「あなた達は私のことを過大評価し過ぎですよ…」
「…何を言ってるんですか。会長は誰よりも優秀で、優しくて、美しくて。皆とは住む世界の違う人間なんです」

俺はその言葉に心底納得したと同時に、表現しようのない疑問を抱いた。

多田が高校時代、もしかしたら中学からなのかもしれないが、生徒会長をやっていたことは知っているし、それは皆にとって周知の事実だ。彼が優秀なのも事実だし、むやみやたらに触れてはならない純粋無垢な百合のような様相をしているのも本当だ。

けど、けど、一つのイメージで固く括ってしまうことで、多田はどうしようもない苦しみに晒されているんじゃなかろうか?「あるべき姿」の強要は、一人の人間の「個」を消し去ってしまうものだと思うから。

「…あの、」

続けて「本当にそうなんですかね?」と横やりの言葉を言おうとした時だった。
多田の顔が苦しそうにくしゃっと歪められて、今すぐにでも泣き出しそうな表情になったのは。

「…っ、」

俺が言葉を発する暇もなく、多田はいきなり二人から顔を背けると悲痛に歪められた表情をしたまま教室のドアを開けて走り去ってしまった。
あまりの一瞬の出来事に、俺も部員も、そしてこの二人も唖然とした顔を浮かべることしかできない。「え?一体何が起きたの?」という疑問の言葉が互いに目をぱちくりしながら交わされている。
まさしく、そんな感じだった。

「…会長…?え…?」

「はるの」が呆然とした口調でそう漏らす。

そりゃそうだろう。
だって多田が、誰かと話している最中に突然その場を走り去ってしまうことなんて絶対にないだろうし、しかもそれが泣きそうな表情をしていたのならば尚のこと驚嘆するのは当然だ。

「…多田、」

無意識に多田の名前を呟いてから、ふと我に返った。

ああ、早く追いかけなくちゃ…。そうしないと、あいつは取り返しのつかない苦しみから逃れることができなくなってしまうかもしれない。いいや、もしかしたらもう、苦しみの感情すら感じなくなっているのかもしれない。

「…多田…!」

俺は大きな声でそう叫ぶと、彼が走り去った方向へと足を踏み出した。



[37]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -