brightness【光】




「…嘘、一緒だ…嘘だろ…?」

花宮は多田の両手をバッと勢いよく掴むと、「…ヤバくない?これ」と微かに呟いた。

「花宮?…私、何で知ってるんでしょう?どこかで、聞いたことがあるような―」

こうやって改めて耳を傾けてみると、双方の声質が全く同じだということに気づかされる。
てか、違う所が服装と髪型と雰囲気だけで、二人が持ち合わせている身体パーツは全くもって同様のものなのだ。

「…うおーーー!やっべえ!!!翔って双子だったの?めっちゃそっくり!前々から翔は優等生的な見た目の方が似合うと思ってたけど、正反対双子やべえな」

金髪にいくつ付けてんの?ってくらいのでっかい指輪…つまりはいかにもバンドマン、な風貌をした男が背後から大声で声を発した。

「…コトちゃん、俺に兄弟はいない筈なんだよ?」

メンバーの名前をよく知らないからどの人がどの名前なのか分かんねえけど、この金髪男は「コトちゃん」と言うらしい。
そう言えばライブ中に「ドラムのコト」とか言ってた気がする。

「いやいや、どっからどう見ても双子だろ。何、ガチで生き別れた双子なの?冗談じゃなくて?…つーか、誕生日も一緒だったじゃねえか」

金髪男が声を発したのと同時に、他のバンドメンバーも一斉にガヤガヤと話し始めた。
その勢いの凄まじさったら…。想像を絶する以上のマシンガントークとテンションに、俺も多田もお互いに顔を見合わせながら困ったように苦笑いをすることしか出来なくて。

錯綜する会話の中で分かったことは、多田の両親も花宮の両親も離婚しているということ。そして、お互いがお互いの名前に朧げながらに記憶があるということだった。

花宮に至っては「夢の中によく俺と同じ顔をした子が出てきてさ」と言っていたし、この二人が何かの事情で引き離された双子だっていうのはガチなんじゃないだろうか。
両親が離婚したからって、兄弟が離れ離れになってお互いの存在を知らせないまま大人になる、っていうのは考えられない。

―大人達の勝手な事情に振り回された哀れな双子。

今の俺には、その言葉しか浮かばなかった。













やっとのことであの面子から解放されたのは一時間以上も経ってからだった。
秋風が蔓延する空気を頬に感じながら、俺と多田は無言で静かに歩く。
知ってはいけない物事の真相を知ってしまった。まさしく、そんな状況を俺は目にしてしまった。

多田と花宮は確かにそっくりだけど、フィクションでもあるまいし、まさか本当に肉親ってことはないよな…?
心のどこかで俺は、そう信じ込んでいた。
代わり映えのない日常に、突然非日常的な出来事がひらひらと舞い降りてくるなんて、誰だって思わないだろう?

「…おい多田、大丈夫か?」

すっかり日が暮れてしまったせいで、ライブ中と同じく多田の表情をよく確認することが出来ない。今はそれがとてももどがしく、イライラする。

「…ちょっとびっくりしてるだけですから…。一体どうしたらいいんだろう、と…」

多田の声は今にも消え入りそうに掠れていた。俺はなんという言葉を彼にかけたらいいのか皆目浮かんでこなくて、全く確証のない「…大丈夫」という気休めの言葉を呟いた。

―大丈夫。…いいや、大丈夫じゃない。

多田が抱えているであろう漠然とした何かも、花宮という存在が現れたことも、俺が彼に告白されたことも、そして多田と花宮の関係性も。
その全てが、連綿と続く複雑な因果に導かれたのだとしか思えない。

「…はあ…」

誰にも聞こえない俺の呟きは、真っ暗な世界に吸い込まれていった。



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