brightness【光】






「えーっと、確かここを曲がった所だったはず…」

見慣れない土地をキョロキョロと見渡しながら、俺は送られてきたメールに添付されてきた地図を見やる。

「…あ、ここか…?それにしてもわっかりにくいとこだな……」

駅から歩いて三分程の所にあるらしいライブハウスは、五十人くらいしか収容することが出来ないらしく、花宮からは「分かりにくいから迷子になるかも」という旨のメールが届いていた。

「雨谷君、ここじゃないですか…?」

隣を歩く多田がポンポンと俺の右腕を優しく叩いた。
その声に導かれるように真横の建物へと目をやると、一見普通のビルのような外観の入口には、小さな黒い看板が掛かっていた。

―live house.

白いフォントでそのように書かれているのを見たとき、俺は「めっちゃ分かりづらっ!」と思った。確かに花宮は「売れてない弱小バンドだから小さいライブハウスに決まってるじゃん」とは言っていたけれども。本当だったのか。

一階の入口付近には地下へと繋がる階段があり、恐らくここを降りていけば会場に辿り着くと思われる。

「…入るか…?」

何故か疑問系で多田に言葉を投げかけてしまった俺は、突如として我に返って、改めてこの場に不釣り合いな多田樹という存在に思いを馳せていた。
静謐な図書館に一人佇んでいるのが一番しっくりくる雰囲気に包まれている多田が、雑然と喧騒に包まれたライブ会場にいる姿がまるきし想像出来ない。それどころか幻影にすらなり得ない。

「何で今になって怖じ気づいてるんですか…?誘ったのはあなたですよ」

ああ、その通りだ。否定の余地もない。

それにしても、よく一緒に来てくれたと思う。
多田と和解出来たことが人生で最大の奇跡(言い過ぎか?)なのに、断られる前提で誘ったライブにまさか付き合ってくれるなんて。

多田そっくりな人にたまたま出会って、そいつがバンドマンだったからライブに誘われてさ!、とは言う気にならなかったので「知り合いにライブチケットを貰って」と適当にぼかしてしまった。
その後花宮に「この間言ったそっくりだっていう人、誘ったからな」と一応報告したところ、「え?まじ?超楽しみ!ライブ終わったら裏に来られるようにしとくからさ、スタッフに声掛けて」という返信が即座に届いたんだけどさ。

「ライブとか行ったことねえからよく分かんないんだよな…」

小さな声で呟きながら、俺は階段に足をかける。



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