brightness【光】





―いける、いけるぞ、大丈夫、大丈夫……!

俺は心の中で何回も同じ言葉を繰り返すと、掌を強く握りしめた。

二百人は入ることが出来るであろう大教室からは、ぞろぞろと生徒達が溢れ出してくる。
その光景は一種独特の雰囲気があって、大学でしか見ることの出来ない景色だとなんだろうな、と思う。

―許して貰えんのかな、俺…

まだ何が起きた訳でもないのに、悪い結果が生じた場合ばかりを予期してしまってついつい弱気になってしまう。

―…多田、多田はどこだ…?

法学部専門科目をわざわざ調べてまで多田に会おう、思ったのは、部室だととてつもなく話しにくい雰囲気だからだ。
先輩や後輩達のいる前で「ほんっとうに申し訳なかった!」と叫ぼうものには、一体何があったのかと探りを入れられるに決まっている。
と、なると多田と話せるチャンスは授業に突撃することでしか掴めない。

二カ月も経ってるんだからその間に謝れただろ?、って?

謝っても許して貰えないかもしれない。多分、許して貰うことは不可能だろう。それが分かっているからこそ、謝る勇気が出なかった。捩れている関係性が完全に途切れることが怖くて、行動に移すことが出来なかった。
けれど花宮に出会ってライブに誘われてしまった俺は、多田と和解しなければならない状況下に陥って。元々謝ろうと思い詰めていた所だったから、タイミング的には見計らったようにちょうどよかったのだが。

これでもしガン無視された挙げ句「顔も見たくないです」なんて言われたら完全終了だな、と思う。

―あー、アホだなあ、俺…
こんなことになるって分かってた筈なのに。どうしてあんなことしちまったんだか…。

「…はあ、」と他人に聞こえるくらい大きな溜め息をついた時、多田の姿が目に入った。
周囲とは比べ物にならない美しさ故に、探そうと意気込む必要無しに彼の姿はすぐに見つかった。俺以外の生徒も、各々に多田に好奇の眼差しを送っているのが分かる。

「多田!」

聞き取れないことないように、俺ははっきりと語気強く声を発する。

「…あ、めたに君…?」

艶やかな光彩を放つ髪がサラサラと揺れ、次の瞬間俺のいる方へと体がゆっくり向く。
窓辺から差し込む夕日が彼に反射して、元々あった輝きに更に眩いばかりの輝きが増した。

「ごめん…!本当に悪かった!許してくれとは言わない…!だからせめて、謝らせてくれ…!」

最敬礼よりも深い礼を狂人のような素早いスピードでしながら、俺は多田に謝罪の言葉を述べる。

「…ごめん!申し訳なかった…!本当に…。いきなりあんなことして、おかしかったんだ、あの時は。全然理性がセーブ出来なくて…、思ったままにベラベラ喋って…。それで、傷つけた。ほんとに、ごめん…」

「何あの人?」「何してんの?」「儚げ王子に謝ってる…?」といった口々の声が至る所から聞こえてくる。
多田からどう思われているのか、どのような視線を送られているのかを知るのが怖くて、俺は下げた頭を上げることが出来ない。



[28]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -