twins【同一の存在】




「…雫に月、だけど?って、え?アンタ双子の兄弟とかいんの?知り合いにめちゃくちゃそっくり、全く同じ顔した奴がいんだけど」

「すっげえ綺麗な名前!今までこんな綺麗な名前に出会ったことないわ…。
ん?双子?いないいない、俺一人っ子だもん。超絶放任クソ親父に育てられたせいで、こんな適当人間に育っちゃってさあ、」

彼は「こまっちゃうよね〜」とヘラヘラ笑いながら、寝癖がつきまくってクシャクシャの髪の毛を優しく撫でつけた。

「ほんとに、そっくりなんだって。アンタが思ってるよりずっと、何もかもが一緒なんだ」

「へえー、めっちゃ気になるなあ…。もしかしたら生き別れた双子の兄弟だったりしてね?…ま、それはないか!」

寧ろ双子の兄弟じゃなかったらおかしいレベルにそっくりなんですが、と言いかけたものの、何とか言葉が出かかる寸前の所で飲み込んだ。

それにしてもこの人、見れば見るほど多田と似ていない。
いやいや、外観は完全に同じだし身長とか体型も同様なんだけど、内面が百パーセント多田と違う人間で。
その激しい差違に、驚嘆とか衝撃という感情すら着いていかない。

「じゃあさ、雫月、…今度その人とライブ来てよ。俺そっくりのドッペルゲンガーに会ってみたいもん」

まさかの呼び捨て。そして誰でもウェルカムなフランクさ。
幼い子供のような無邪気な笑みを浮かべた表情は、多田からは確実に見ることの出来ない表情に違いなかった。

「とりあえず朝ご飯食べない?っても大したものないんだけど」

細くて長い指が俺の手首をふわっ、と掴んできて立ち上がることを促す。
それに抗わずにそのままベッドから立ち上がると、小さな折りたたみ式のテーブルの真横に彼は座った。俺も続けてその隣へ座る。

「はい、コーヒー飲める?あと食パンね、」

「…ああ、うん…」

普通は泥酔した他人を介抱して、更に一緒にご飯食べるか…?と疑問に思いながらも、差し出された食パンを少しかじる。

「…で、ライブって?」

「俺さ、バンドやってんだわ。まあ売れてない弱小バンドなんだけど…。それで、二週間後にちょうどライブやるからさ、見に来てよ」

ふとグルっと部屋を見渡すと、六畳ほどの小さな部屋の至る所にバンドのポスターだったり、ギター(ベース?)だったりが散乱しているのが目に入った。
言われて見れば彼…、花宮?の髪型にしてもピアスにしても、いかにもバンドマンって雰囲気が全面に出ている。

「いいけどよ。こんな酔っ払った挙げ句意識失ったような奴が行くんでいいのか…?」

「これもある意味運命だと思うし。雫月があそこで飲んでたのも。俺が声かけたのも。俺そっくりな奴と間違えられたこともね」

彼はコーヒーを一口飲むと、思い立ったように両手をパンっ、と叩いた。

「…それで、一つ言いたいことがあるんだ」

到底男とは思えない長い睫毛がシパシパと上下に動く。

「なんだ?」

「…俺、雫月のこと好きになっちゃった、はは…」

花宮は困ったようにそう言うと、クスリと笑った。



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