twins【同一の存在】





暖かな日差しと、香ばしいコーヒーの匂いに誘われるように目が覚めた。
頬に当たっているクッション、枕?が明らかにいつもと肌触りが違うことにはすぐ気がついたし、何よりも人の気配が真横にあることが「…ここ、どこだ?」という疑問を広大なものにする。

「…あ、起きたね」

目をパッと開くと、俺の寝ているベッドの真横には多田樹が佇んでいた。

「……多田、」

ガンガンと痛む頭で記憶を遡る。

―えーっと、俺、バーで千里と飲んでて…。多田のことを恥ずかしいくらいに喋りまくって……。えーっと、それで…?
千里がバイトだからって先に帰って、俺だけ一人で酒を飲みまくってた、って所までははっきりと記憶がある。

―それで、どうしたんだっけか。
誰かに話かけられたらような記憶が朧気にあるような、ないような。
そうそう、「君、生きてる…?」って大きな声で言われたような…?

「まだ酔ってんの?確かに昨日は意識失うくらいまで酔ってたみたいだけど。」

「酔ってねえよ。…ってか、え、多田…?」

「多田」は困ったように眉を顰めると、「やっぱり酔ってるだろ。だから俺、違うって」と呟いた。

「俺は花宮翔。その、何だっけ?君が間違えまくってるタダなんとかさん…?とは全くの別人だよ」

「はなみや、かける…?」

日本語を上手く喋ることの出来ない外国人のようにぎこちない口調でその名前を反芻する俺を見て、目の前の彼は「ははっ」と笑った。

「誰と間違えてんの?よく見てみなよ?間違えてる人と全然違うでしょ?」

人差し指を顔に指差しながら首を横に傾げる「多田」を見たとき、表象されている違和感が顕著なものとなった。

口調、髪型、ピアス、そして何よりも醸し出されている雰囲気。全てが多田樹と正反対なのだ。多田が完璧な隙のない優等生だとしたら、コイツは授業をサボりまくってる不良のような感じ。
顔の作りは一寸の狂いもなく多田と一緒なのに、明らかに違う人間だということが理解できた。

「似すぎなんだけど。え、何?イメチェンしたとかじゃなくて?」

「だーかーらー!違うって!俺は花宮翔だって何回言えばいいの?やっぱりまだ酔ってるんじゃないの?…てゆーか君の名前教えてよ。酔っ払って意識不明になった君を介抱してここまで連れてくるの、超大変だったんですけど。死ぬかと思った」

俺が寝かされている茶色いベッドの上に勢いよくボンっ、と座りながら、彼はベラベラと話す。

「…雨谷雫月、だけど、」

「しづき?めっちゃいい名前じゃん!漢字はどうやって書くの?」

普段敬語でしか喋らない奴が話すタメ口の破壊力も凄まじいし、多田が何かの罰ゲームとかで化けてるとかじゃないのか?

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