twins【同一の存在】




「…自傷行為の跡が、あったんだよな」

思わず口にしてしまったのは、目にした後に一瞬たりとも忘れることの出来なくなってしまった無数の傷と、傷跡のことだった。
転んでついた、とか不注意負った傷では明らかになかった。故意的に自分で自分を傷つけたとしか思えないような切り傷が、あの細い二の腕に張り巡らされていた。

「え。自傷?多田君が?ないない、ないでしょ…ありえないって。あの人が自傷してたら天変地異すぎるよ」

「…って思うだろ?けどあれは確実に自傷、って感じの傷だったんだよ。しかも古傷…、確かに古傷もあったけど、まだ数日しか経ってなさそうな傷もあってさ」

鮮明に脳裏にこびり付いた赤黒い傷が俺のアイツに対する疑問を更に膨大に膨らませていく。

多田は一体何を抱えているんだ…?
俺のこの漠然とした違和感はもしかして当たっているのか?
心から笑ってない、とふと感じたあの感覚は偽りじゃなかったのか?

「ないとは思うけどね。普通に考えて、自傷するくらい精神状態がやばくなってるっていうのに、あんなにニコニコ優等生をやってられると思う?二重人格でもなかったら無理でしょ」

「…あーーーー、だよなあ…イライラしてしょうがねえ。アイツが入部してきてから俺の人生が狂ってきてるような気がしてなんねえ…」

何杯目かもよく分からないアルコールに手を伸ばしながら、鬱蒼と積もる感情にどう対処しようかと思索する。

「しーちゃん、飲み過ぎ」

「飲まないとやってらんねえんだよ。だってよお、あの日から一日も口聞いてもらってないんだぜ?ほんとヤバすぎる…。このまま卒業するまでこのままだったらどうすんだ?」

まじでどうしよう。
俺の阿呆すぎる行動のおかげでアイツの本当を知るどころか、他人以下、最低最悪の関係へとなり果ててしまった。

「…あのさ、しーちゃん。悩みまくりの所本当に悪いんだけど、俺これから夜勤なんだよね。バイトばっくれる訳にいかないから、ね?」

両手を胸の前でパンッ、と強く合わせながら千里は「申し訳ない!」と店中に響き渡るような大きな声で言った。

「…しょうがねえよな…。労働、だし」

「俺コンビニの夜勤大魔王になろうと思ってるから。ってかもう大魔王レベルかも。将来は店長かな?」

「千里、お前さ…授業ちゃんと出てんの?調子乗ってると単位落とすぞ」

偉そうなことを言っている俺だって、常に単位の危機に晒されている訳で。
けど、自分よりもっと大変な状況に置かれている人間を目に入れることで安心感が増すかも、なんてクズ人間も甚だしい考えが頭の中に浮かぶ。

「こう見えて俺、めっちゃ要領いいから最終的には全部取れるんだなー!それが。それに出席重視の授業少ないもん。……じゃ、ごめん。俺そろそろ行くね?しーちゃんはまだ残るでしょ?」

紺色のジャケットを羽織りながら、千里は俺に答えを促した。

「ああ、残るわ。色々と考えたいことあるし」

「…飲みすぎないでね?酩酊して千鳥足になったって迎えに行けないんだから」



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