twins【同一の存在】





「まじでやべえ…!なあ千里ぃ……助けてくれよ…」

ザワザワという喧騒に包まれた空間の中で、俺は千里に対して大きな声で言う。

「…でもさあ、しーちゃん。話聞く限り明らかにしーちゃんが悪いと思うよ?酔っぱらった勢いで襲い掛かるとか、俺だってされたら超やだもん。二度と関わりたくないって思うでしょ」

「でしょ?」と千里は声を続けながら困ったように笑った。

ガラスに注がれたお酒が驚くべきスピードでなくなっていくのを他人事のように思いながら、俺はグビグビと体内にアルコールを取り込んでいく。下戸という訳でもないのに、俺がここまで酒に頼っているのには理由があった。


―二か月前。

合宿の宴会でベロンベロンに酔っぱらった俺は、同性に襲いかかるという笑いごとでは済まない惨事を引き起こしてしまったのだ…。
言い訳をさせてくれ。あれはしょうがなかったんだ。
あんなに色気をムンムンと出しまくっている男がいると思うか?作り物のような綺麗な顔をして、何の隙もない完璧優等生から発せられる色気ほど危険なものはない。
酒の勢いもあってか、常に多田に感じていた違和感が抑えきれなくなって、部屋で二人きりになった時、無意識に本心を漏らしてしまった。

素面になってから我に返った。
出会ってから大して経っていない人間にあんなこと言われたくねえよな…。俺、最低だわ、と。

「しーちゃんがここまで深刻に悩むってことは相当だよね。その優等生多田樹くんもなかなかだよ」

「いや、あれは確実に俺が悪かった…。悪酔いした勢いで…ああああああやべえ…もう終わった…!あの日以来一回もアイツと話してない…連絡しようにも連絡先知らねえし、大学始まってサークル行っても完全スルーされるし…」

言葉だけで済んだのなら、まだよかった。
優等生ずらして楽しいの?生きてて楽しいのか?と口にしてしまったことだって相当まずいのに、何をとち狂ったのかベッドに押し倒して襲うなんて、頭が完璧に沸いていたとしか考えられない。

理性が消失する、ってああいうことをいうのか、という感じだった。
多田をめちゃくちゃに壊して、よがり泣かせたい。あの白く華奢な体を抑え込んで自分の支配下に置きたい、とか発情した野生動物みたいなことを考えてしまった。ああ、それで。

「…うーん、確かに。俺だってまさかしーちゃんがホモだとは思わなかったもん。女の子大好きなノンケを発情させるなんて、多田君も罪な人間だよね」

「待て待て。俺はホモじゃねえから」

ぐびっとビールを飲み干した後に、俺は否定の意味合いを強く込めて語気強く言う。

「え、ホモじゃないのに襲ったの?いくら多田君が綺麗で美しくて人間離れしてるからって、同性に発情するって普通じゃないと思うけど」

千里の言葉がグサグサ胸に突き刺さる。

多田がサークルに入部してきてからと言うもの、普段だったら絶対に思いもしないようなことを考えてしまったりして、完全にペースを乱されまくりだった。
てか、多田が入部してくる前から妙に気になってしょうがなかったんだよな。初めて目にした時から、多田の見えない叫びがありありと聞こえてくるような気がして。



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