夢の中【in the dream】





「ポタポタ、ポタポタ、ポタポタ、   

雨のしずくがポツン、と落ちて、水たまりができました。
何粒も、何粒も、くもったお空から落ちてくるのです。とうめいなしずくは地面に落ちて、ピシャン、とはねました。ぼくの体もびしょびしょです。
つめたくてつめたくてどんよりした雨が、ぼくはキライでした。

けれど、ある日のこと。
おそらのスキマからキラキラと晴れ間がのぞいていて、そこからポタポタと雨がふっていたのです。
どんよりとくもったお空と、まぶしくて明るいお空。二つのお空がいっしょになってハーモニーをかなでます。

ポタポタ、ポタポタ、ポタポタ、
雨のしずくがポタポタとせかいにおちていきます。
青いけしきはとてもキレイです。きゅうらっかするしずくは、ピシャンと音をたてます。
ぼくは、雨がだいすきです。

…ポタポタ、ポツン、…ポツン、
今日もせかいは雨のしずくでいろどられているのです。」





お母さんは、いつもぼくに絵本を読んでくれた。優しい声で、ゆっくりゆっくり分かりやすいように。
気がついた時にはぼくのとなりにあの子はいなくなっていた。
たぶん、弱虫なぼくがかってにつくったなりたい自分だったんじゃないかなあ、って思う。

ぼくとお母さん、二人だけの世界。
そこでぼくは絵本を読んで、お母さんもぼくに続けて読んだ。ほんとうに、すごく楽しくてしあわせだったんだ。











「ぼく、これがほしい!」

ぼやけた青い世界で、ぼくはめずらしく大きな声でそういった。
あめがピチャピチャふって、地面が水びたしになっている日だった。

「これが欲しいの?」

お母さんはびっくりしたように言う。

「うん、これがいいの!すっごいきれい!キラキラしてて、ぼくの大好きなあめの色と一緒なんだもん!」

「樹ちゃんは本当に雨が好きね」

「…うん!大好き!」

ぼくが手に取ったのはお空からふってくるあめと同じ色のビー玉だった。
とうめいな色と水色がまざって、ぎゅっ、ととじこめられている。
コロン、と手のひらにころがったビー玉はお外のあめのしずくをうつしていた。

「…お母さん、買ってくれる…?」

お母さんは「うーん」と小さく言ったあとに、大きくてきれいな手でぼくの両手をつかんだ。

「…うん、いいわよ」














「お母さん見て!また百点だったよ!」

あれは確か、小学校に入学して直ぐの頃。
大きな赤いはなまるが紙いっぱいに書かれている答案用紙を掲げながら、僕は言った。
お母さんは離婚をしたばかりで、毎日思い詰めている様子だったから。
だから、元気づけなきゃいけない、と思ったんだ。

僕は離婚というものがどういうものなのか、よく分かっていなかったけど。お母さんとお父さんの仲が悪くなって、一緒にいられなくなっちゃうことだっていうのは分かった。

事実、ついこの間まで僕の側にいたお父さんは元々存在していなかったかのように姿を消してしまっていた。でもお母さんにお父さんのことについて尋ねると泣きそうな顔をするから、僕はうかつに声を発することが出来なくなった。

―お父さんは、どこにいっちゃったんだろう?なんで、いなくなっちゃったんだろう?

小さな手を握るのはお母さんの掌だけで、お父さんはそこには存在しない。

「樹ちゃんは本当に賢いわね。お母さん、樹ちゃんのこと本当に大好きよ。賢い子は、大好き」

お母さんの茶色い瞳と目があった。
小さな僕の視点から見上げるお母さんの顔は、にっこりと微笑んでいた。

「…僕って賢いの…?」

賢いという言葉の意味がよく分かっていなかった僕は、純粋な疑問をポツンと呟く。

「ええ、樹ちゃんは賢い子よ。優しくって、頭がよくって、お母さんの誇りなの」

お母さんはそう言葉を発すると、しゃがみ込みながら僕のことを優しく抱き締めた。



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