lie【嘘】





「…堕ちろ、めちゃくちゃになれ…。堕ちて堕ちて堕ちて、優等生の姿なんて思い出せないくらいに…。それで、背徳感に囚われればいい」

口から信じられないほど残酷な言葉がスラスラと出てきた。

ムカつく、ムカつく。
多田をめちゃくちゃに犯して壊してやりたい。嘘の皮を剥ぎ取って本心を露わにしたい。
勝手に苛ついて、勝手に襲い掛かる。
人間として終わっているとは思ったが、湧き上がった欲望の波から逃れることは不可能だった。

抑え込んでいる両手をゆっくりと離すと、俺は多田の着ているシャツのボタンを一つ一つ丁寧に開けていく。
頬が火照って暑い。頭がガンガンする。胸の中には真っ暗な感情が渦巻いている。

「……や、…っ、やめ、…て、」

露わになったのは、到底男とは思えない艶めかしく、美しい身体だった。
日光を浴びたことが一度もなさそうな真っ白な肌は陶器のようにしなやかで、腰回りは華奢過ぎて力任せに襲い掛かったら折れてしまいそうなほど。

そして、そこに点在する二つの淡いピンク色の突起物。
女にはある胸がないことが、多田が男だという当たり前の事実を証明していた。
けれど、女よりも何倍も魅力的で美しく感じるのは何故なのだろう。

「…ひゃ、…っ、何して…」

乳首に優しい口づけをいくつも落としてから、首筋、鎖骨、腰回り、と様々な箇所にキスをする。
多田の体つきの全てを確認するかのように、五本の指に神経を這わせながら、すーっととすべすべの肌を愛撫していく。

「…慣れてねえな…、童貞なの?」

多田の初心な反応に驚愕した俺は、思わずそう口走ってしまった。

「なんで、なんであなたにそんなこと聞かれなきゃいけないんですか…っ、離してください!早く…っ、おかしいでしょう…。同性にこんなこと、するなんて」          

ポツン、と美しい瞳から透明な雫が滴り落ちた。
多田が泣くとは夢にも思わなかったので、突如の出来事に俺は驚きを隠せない。
俺がしたことと言えば、愛撫して、キスをしただけだ。確実に泣くほどのことはしていない。

「…何泣いてんの、馬鹿じゃねえの」

ポタポタと透明な涙が多田の頬を伝う。

―多田が泣く姿はどんな風なんだろう?

想像しても明瞭な姿が全くといっていいほど浮かばなかった。
その未知の姿が俺のすぐ前にあるのを目にして、俺の心は見てはいけないものを見てしまったかのように痛む。
彫刻のような美しい顔に浮かんだこれでもかという程の恐怖の表情。

俺がこいつを怯えさせているのか。俺が手を退けさえすれば、こいつはいつものような凛とした姿に戻るのか。
当たり前の事実を、俺は当たり前に理解していた。
なのに俺は、溢れ出す己の欲望を制御する事ができなかった。

「…お前が悪い。襲って欲しいって顔してたじゃねえか」

「…っ、してません!あなた、頭おかしいんじゃないんですか?」

フルフルと必死に首を振る多田の必死さが健気でいじらしくて、そして可愛く思えて、膨れ上がる欲望が更に増した。
人間であることを忘れた野生動物のように、体内で湧き上がる性欲に抗うことができない。
酔っ払った勢いで男に欲情するだなんて気持ち悪いと罵られても仕方がない。

うるうると目の縁に溜まった涙が、一筋線を描いてベッドへと落ちた。
それは茶色いシーツの上で黒ずんだ染みとして広がり、じんわりと丸形に滲む。

多田の潤んだ瞳と目がばっちり合ったとき、何とか繋ぎ止めていた人間らしい理性の箍が、完全に外れた。
もうそれはほぼ無意識に近く、この欲望に身を任せることが最善の選択であるように感じられた。だって俺は酔っていたし、多田から溢れ出る色気は今の俺には危険要素以外の何物でもなかったのだ。



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