幻想と幻想の相違点





駆け抜けて、駆け抜けて、駆け抜けて―――

だって僕にはそうすることしかできないから―――




Illusion&illusion and point of difference; the fictional world he thought or the real he exists now




「リーオお前、いつも本ばっかり読んでて飽きないのか?」


物語の世界を駆け抜けていた僕は唐突にそう尋ねられ、その声がした方向へ目を向けた。


「飽きないよ?どうして?」


こういうことはよく、ある。本を読みふけっている僕をエリオットは怪訝そうな、不思議そうな何とも言えない表情で
見てくるのだ。いつもは何も言わないけれど。
おそらく話かけられるのは今回が初めてだと思う。


「“どうして?”って…考えねえのか?リーオ。今日はクリスマスだぞ。少しは外に出ようとか、そういうことを考えるもん
じゃないのか、普通は。」


久しぶりの、響きだった。
クリスマス、とかそういう世界に散りばめられた幸せそうな光は僕と縁なんてないと思っていたから…ずっと。
“普通”という感覚が、誰かと気持ちを共有するという感覚が、多分僕には皆無なのだろう。
世界を誰とも分かり合えない僕にとって、普通の世界は虚構でしかない。


「これがいいんだよ、僕は。それにそういう行事ごとは僕には関係ないし…」


そう言い終えて、ベッドに座っている彼の方へ目を向けると、あからさまに不服そうな顔をしたエリオットが服を
手に取りながら立ち上がった。


「じゃあ、今から外に行けばいいんじゃねえか。“関係ない”じゃなくてよ、“関係ある”ようにしちまえばいいんだ。
簡単なことだろうが」



―まただよ…エリオット…―


君はいつも僕が思ってもみないことを言ってのける。
“関係ない”と言っておけば立ち入ってこないと思った―だけど君は違うみたいだ。


―もう君は、本当に…―
―まいっちゃうよ、エリオット―



「エリオット、僕に構ってもらえなくて寂しいんでしょ?」


「は、ち、ちげえよ!単にオレは四大公爵家の者としてそういうものが大切だと学んできただけだ!それにお前も一応オレの
従者なんだからたまにはいいだろ、そういうのも。」


「違う」と言っている割には耳が真っ赤になっているところがいかにも彼らしいといえば彼らしいのだが、そういう彼を誰よりも
「大切なもの」と認識してしまう僕自身にもどうしてだかおかしくなってしまって、思わず「くすっ」と笑ってしまった。


「エリオットに言われたら、なんだか気になってきちゃったな、クリスマス。」


「なんだよ…何だかんだ言ってお前だって気になってるんじゃねぇか。」


「違うよ。エリオットに言われたから興味が沸いたんだ。多分他の誰かに言われても気にも止めないだろうなあ、要は僕は、
エリオットに動かされてるってことか。」



いや…
―動かされてるというより、変えられてるってことかな―

彼の言葉は、いつも僕の心を闇から光へと変える。それは僕の思い込みかもしれないけれど、少なくとも僕を、虚構で作られた
世界から現実の世界へ連れ出してくれるのは、いつも彼だから。


「じゃあ…行くか?」


「うん。…まあ、僕は君に付き合うんだけどね。」


「お前は!いちいち一言多い!…風邪ひくんじゃねえぞ。ちゃんと着込んでけ。」


「分かってるって、エリオット。」


何かに導かれるように、ふと窓の外を見た。
エリオットの影を断片的に写している窓は、雪の通り道みたいなもの。
静かに降り続けている雪は冷たいと分かっているけど、不思議と僕の心に染み込むような、温めてくれるような気がした。



―それは何もない夕暮れのこと―




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