lie【嘘】







「文芸部の繁栄を祈ってーーー!皆今日はガンガン飲んじゃって!せっかくの合宿なんだからぱーっと騒いで弾けよう!」

蓮華先輩の掛け声と共に、部員たちの「おーー!かんぱーい!」という大声が響き渡った。

ホテルの下の階にある大きな宴会場を貸し切って、俺達文芸部の部員は飲み会を始めた訳なのだが。

これさ。合宿という名称はただの建前で、実際は飲み会を遂行するための集まりなんじゃないかと思うんだ。
よく考えてみれば文芸部の活動というのは個々人で完結出来ることばかりで、他人と関わりあうことがほとんどない。文芸誌を作るのだって、個々が書いた小説を纏めるだけだ。
だから、こうやって強制的にでも集まりを遂行しないと、部員と深く関わりあうことがないっていうのが実際の所で。
酒に酔った勢いで本音をぶつけ合えることもあるだろうしな。

去年なんかはベロンベロンに酔っぱらった二年の先輩が大声で三年の先輩に告白して、奇跡的にOKを貰った事案があるくらいだ。
村本も酔いが回りすぎて、ただでさえ何を言ってるのか分からないのに、『カントの不可知論』とやらをベラベラと話しまくっていた。
最高に訳が分からなくて適当に相槌を打ってた記憶がある。

「ことしは樹くんが入ってくれたからね…私は…しあわせ…ふへへ…」

「…よっ、樹殿!儚げ王子!」

「いつきくーん…ビール取ってえ…」

先輩達の異常なハイテンションに「うわ。これは大変なことになってきた」と心の中で呟く。
かく言う俺も結構なペースで酒を飲んでるせいで意識が朦朧としてきたような気がする。

皆とガヤガヤ騒ぎながら開ける酒の旨さったらないよな。
二日酔いなど考えないで楽しさに身を任せてしまう。
多田は酒に弱いという理由で一口、二口しか飲んでいなかったのだが、それでも顔がいつもより赤くなっている。本当に弱いのか。まあ、イメージ通りっちゃあ通りだな。

「おーい、多田あ、お前も飲めよ。一人だけ素面なんて、ふざけんじゃねえ…」

身体がふわふわするのを感じながら、隣でちまちまと水を飲んでいる多田に話しかける。

「…いや、本当にお酒は…駄目なんです」

手を顔の前で振りながら否定する多田のことを見て、つまらない奴だなとつくづく感じる。
場の雰囲気ってものがあるだろうが。多田はそれをぶち壊すつもりなのか?ふざけるな、と怒りの感情が沸々と湧き上がってくる。

「雨谷君、もうこれ以上飲まないほうが良いんじゃないでしょうか…。ふらふらですし」

「あ?うっせえなあ…。人がどんだけ酒を飲もうとてめーには関係ないだろ」

荒んだ言葉が無意識に口から零れる。
酔っているからなのか分からないけど、俺は感情をコントロールすることができなくなってきていた。
多田に常々感じていた違和感や疑問が怒りの言葉となって口から溢れ出していく。

「樹くんはあ〜〜、高校の時何してたの〜?部活動とかあ〜〜、委員会とかあ〜、お姉さんに教えて〜?」

完全に悪酔いした蓮華先輩がヘラヘラと笑いながら多田の肩を掴んで揺らす。
「…あの」と小さく呟いた多田は困ったように眉を顰めた。

「…生徒会長を、してました。それで結構忙しくなってしまって、部活動はしていなかったんですけど」

「凄い!会長!やっばーい!イメージにぴったり!わ〜、流石樹くん〜!完璧で眉目秀麗で、皆に優しくって、それが樹くんだもんね!」



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