contact【接触】






「できますよ。でもいいんですか?確かあんた、入学式で式辞を述べてましたよね?相当頭いいんじゃないですか?そんな人がこんな、物書きの素人集団に入ったって物足りないと思うんですけど」

「素人の物書き集団だなんて、思っていませんよ。文芸誌を読んで、心が惹き付けられたんです。どうしてもここに入りたいって思ってしまって。あんなに素晴らしい文章を書ける方のいる場所に私も身を置いていたいって」

「それに、私は頭が良くなんてありませんよ」と多田は言葉を続ける。

おいおい、と俺は頭の中で突っ込みを入れる。
私って…。現実にこんな奴いるのかよ。キャラじゃなくて素でやってるのか?
しかもこの敬語ときたら…。普段からこうだったら流石に驚愕してしまう。
自分の容姿に合わせたキャラ作りをしてんだよな?そうだよな、きっと。


「あーーーー!儚げ王子だーーー!」

バッターン、と衝撃的な扉の開閉音が部屋中に響き渡ったかと思うと、これまた衝撃的な蓮華先輩の大声が耳に入ってくる。

「えっ?うっそーん、何で儚げ王子がこんなとこにいるの?いらっしゃるの?」

「儚げ王子?私のことですか…?」

「君しかいないでしょう!ねっ、学園中で有名な法学部二年の多田樹くん」

こいつ、法学部だったのか。ははーん、妙に合点がいったぞ。
流石優等生君。弁護士になってエリート街道まっしぐらって訳だな、なるほどね、と俺は勝手に納得する。

「名前、知って…」

「そりゃあ知ってますよ」

にやりと当たり前です!、な笑みを浮かべた蓮華先輩は「近くで見るとますます儚げ…。酔いしれる…」と陶酔しきった表情で言葉を洩らす。

「いえいえ、そんな。あの、入部させて頂きたくて伺わせて頂いたんです。」

「…え?」

「いいでしょうか?どうしても、ここで文章を書いてみたいんです。二年からの途中入部になってしまって、ご迷惑をお掛けしているのは重々承知しているのですが…」

本当に、綺麗な日本語を話す奴だ。
多田からは、普通同年代から感じられるような不完全さや未熟さが微塵も感じられないし、何より生身の人間らしさが全く伝わってこない。

生きているはずなのに。今ここで息を吸って、確かに存在しているはずなのに。
それなのに、まるで凄腕の彫刻師に作られた人形のような造形をしたこいつは、最初からプログラミングされていた言葉を話しているように思える。

「あなたが、ここに入部?それ、真面目に言ってる?」

「…はい」

多田が息をのむ音が微かに聞こえる。

「あああああありがとう!あなたみたいな人がまさか入部してくれるだなんて!え、ドッキリとかじゃないよね?違うよね?今更ドッキリですとか言われても取り下げないからね!学祭ではバンバン売り子をしてもらって!これで売り上げがきっと何倍にもなる…っ!」

機関銃のように勢いよくまくし立てる先輩のことを見て、俺は単純に「これはやばい」と思った。
蓮華先輩から視線をずらし左方向に顔を向けると、多田と目が合う。
刹那、胸に原因不明のモヤモヤとした塊が沸き上がるのを感じた。
どうしようもなくイライラして気持ち悪い。

頼むから、心から笑えよ。作り物の笑顔を浮かべるな。お前は、人形じゃないだろう?
優等生ずらしやがって…、本当の姿を見せろよ。

「…これから宜しくお願いしますね」

多田の作り物のように優しい声が、俺に向けられる。
俺は多田から視線を逸らしながら「ああ」と言った。



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