sweet




俺は、自分の目を疑った。
というか、教室に入ってきたその人を見た瞬間、クラスの誰もが目を疑ったはずだ。
時が静止して、その人を凝視することしか出来なくなった。
この狭い空間の中においてあまりにも綺麗すぎる姿は、異質で、そしてキラキラと輝いていた。


…あ、俺?
俺は誰?って?
うーん、クラスのモブとでも思っておいてくださいな。
派手でも地味でもない極普通の一般人でございます。
少なくとも、生徒会にいるような人間は遠い世界の住人だし、俺には関係ない。

会長にしても副会長にしても、会計にしても…。おかしいんじゃないか、ってくらい美形の集まりだからなあ。

副会長に関してはあの恰好が悪目立ちしすぎて、「やめればいいのに」って思うんだけど。
折角綺麗な顔してるのにもったいないよね。


って、そうだそうだ。
クラス中がシーンとしすぎて思わず違うことを考えてしまった。


あの人は誰?っていうか……え、ほんとに誰?



少しだけ青みがかった黒髪に、藍色の瞳。
ちょっとだけ髪に癖があるのか、襟足がぴょん、と跳ねている。
かっこいい、というよりか綺麗と形容するのが正しい気がする。
会長が「美しい」だとしたらこの人は「綺麗」って感じかな…?



あんな人、知らないんですけど?



グルグルと巡る思いに神経をとられていると、思わず耳を疑うような言葉を住之江が発した。


…ん?住之江に話しかけてるってことはクラスメイトなのか…
いやいやいや、んな訳ないじゃん、と自分に突っ込みをいれている時のことだったので、俺の頭はスパッと思考を停止した。


「何笑ってんだよ、春乃」



はるの…?春乃って、桜川?

このクラスに春乃という名前は彼しかいない。
チャラチャラして、ヘラヘラして、いつも笑ってる副会長。その癖掴みどころがなくて、何を考えてるのかよく分からない。
内面がさっぱり見えないから、彼が本当はどんな人間かなんて分かりっこないのだ。




……嘘でしょ?
天変地異とかいう次元を超えている。視線の先でクスッと笑っている桜川(駄目だ、信じられない)はあまりに綺麗すぎて、目を離すことが出来ない。

ガヤガヤとし始めた教室中を全く気にしていないのか、住之江と桜川(らしき人物)は二人だけの世界に浸っているかのように見えた。
それはまるで甘酸っぱいお菓子のような、ふわふわとしたピンク色の世界で。

おっかしいな。この二人って仲良くなかったはずなのに。
犬猿の仲だって有名だったのに今感じられるこの雰囲気は、まるで付き合ってます的な甘くてドキドキする空気感そのものだ。


けれど、そんなことで驚いている余裕は皆目無くなった。



何故ならば、聞いているこっちが恥ずかしくなるような言葉が聞こえてきたからである。



「一縷のことが、好きだ」



世界が止まった。
比喩じゃなくて、真面目に静止したと思う。
静かすぎる教室の窓側で繰り成されている二人の世界が、遥か遠くの物語のように感じる。



……きょ、教室で堂々と告白…?
へ?…桜川が、住之江に告白?


副会長と会計ってそういう関係だったの?
い、一体いつから……?
ダメだ、意味の分からないことが多すぎる。俺の頭で処理できる次元を越えてるわ。



あれだな、今日はきっと授業にならないな。
一世一代の大事件を目撃してしまっているような気がするんだけど…。
俺は関係ないのにドキドキしてきてしまった。




住之江は優しく微笑むと、小さく、けれどはっきりと言葉を紡いだ。


「“ーーーーーーーー”…待ってた。」


桜川のあまりにあまりに綺麗な横顔が、パッと表情を変えたのが分かった。
彼の頬が桜のような淡いピンク色に紅潮した。




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