光は

光は | ナノ





ふわり、

        ふわり、

 ふわり、


………、

…………ふわり、






暖色に包まれた空間で、桜の花びらが舞う。
閉ざされた暗闇の空間に眩いばかりの朝日が降り注いでいることに気が付いたのは、その花びらを必死に掴もうとした瞬間だった。


そーっと瞳を開けると、いつもと何ら変わりのない世界がそこにはあった。


囀る小鳥の声に、サワサワとさざめく木々の音。
そして、カーテンの隙間から差す太陽の光。


…………ああ、


……………そうだ、うん……


……そうなんだ………






……秋は死んだ。
もういない。返ってくることはない。その姿を見れることは未来永劫、ありえない。
どんなに泣いても、その涙が枯れるほど泣いても、自分が誰なのか分からなくなる程悲しんでも。
手を伸ばして届かなくとも、あの笑顔を二度と見れなくても。



俺は彼に甘えすぎていたのだ、と今になって気がついた。己の馬鹿さ加減に嫌気が差す。
彼は太陽で俺を照らしてくれた。優しく微笑む太陽はいなくなることはないって、信じてしまった。


一種の依存だったのだ、と思う。非力な少年が自分を護ってくれる存在を見つけ、それがなくてはならないものとなった。
だからこそ、その存在がなくなってしまった瞬間、俺の軸を支えていた基盤もなくなった。





…馬鹿だな、俺。


いなくなってしまった彼に「俺をおいていなくなるなんて」と独りよがりの我が儘を押し付けて。
自分だけが悲劇の役者になったつもりで、もう俺は以前の俺じゃないんだ、変わったんだよ、なんてそんなこと。
道化師を演じて他人になりきって、笑顔で、秋の姿を真似て象って。
その癖秋のことを直視することはできなくて。

そんなことしたって、秋は返ってこないのに。




結局は全て、自分の弱さに負けない為だったんだ。
彼がいなくなって、自分を保てなくなって、軸を失った俺は秋に成り代わろうとした。全ての悲しみから、遍く辛さから目を背けるために。

辛さが増すだけだってことにも気づかずに。




…………もう、やめる。


俺は俺で、俺以外にはなれないのだから。どんなに愚かで脆くても、それは自分なんだから。
虚偽の仮面を身につけることは、自分自身を苦しめるだけ。
それでもやめることができなかったのは、自分が何なのかすら分からなくなってしまったから。
どこに自分があるのかさえも分からなかった…。真っ暗な場所で。



「俺は春乃の保護者だからさ」



「…なんだそれ。俺、秋の子供かよ…」


自嘲的に呟いてから窓の外の景色に目をやると、ちょうど盛りを迎えた真っ赤な紅葉がひらひらと舞っているのが目に入った。


俺の大好きな秋の、紅葉だ。



「…俺は秋が好きだったよ」



この思いがこれから変わることはないだろう。


好きだった、になっても、心の中では永遠に秋があの日のまま生き続けてる。
秋と過ごした日々が消えることはない。


でも、でも俺は前に進まなきゃいけない。



現実から目を背けることは、やめる。
俺は鏡の前で小さく微笑むと、ピンク色のピアスを外した。そして、一縷から貰った藍色のピアスをつけた。




……春乃に戻るために。



―――――光を手に入れる為に。



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