事実の日記、満月の宴

事実の日記、満月の宴 | ナノ




10月20日

「今日はじめて皆が噂してる?人を見かけた。あまりにも綺麗綺麗っていうもんだからどんな奴なんだよ、ま、たいしたことないだろって思ってたんだけど。

びっくりした。自分の目を疑った。
…綺麗って言葉をそのまま人間した、みたいな。あー、うまく言葉にできなくてイライラするなあ

名前、なんだっけ。なんか名前も綺麗だったような気がする。うーん、思い出せない…
話してみたいな、早く。」





11月12日

「ついに彼と話せた!屋上にいるところを見つけて思わず話しかけたけど、引かれたかな…、それにしても綺麗だった。近くで見るとなおさら綺麗!思わず見ちゃって申し訳なくなるくらい。
特に髪と瞳がみたことない綺麗さだったなー
名前も聞いた。春乃だって。桜川春乃。顔立ちだけじゃなくて名前まで綺麗なんだもんな、、、
確かに桜の花びらが舞ってるのが似合うような儚さにあふれてるなあ…」




11月25日

「よし、やっとちゃんと話せた…!
そしてまさかの事実が発覚した。春乃は自分の綺麗さに全く気づいてないってこと。…無自覚にもほとがあるだろ。

俺がなんでこんな格好してるんだって、聞かれた。春乃から質問してきてきてくれたことが嬉しかった。

……言えないよな…、自分が弱いからその弱さを隠すためにわざと目立たせてるなんて。否定されてることから目を逸らすために自分を飾ってるなんて…、

本当は弱い人間だってこと、言える訳ない。」





そこから暫くの間日記は書かれていなかった。
数ページの空白が続き、再び文字が並んでいるページへと辿り着いた。
その字体はさっきに比べ、だいぶ乱れていた。




7月6日

「毎日楽しい。何も苦しいことなんてない。春乃といるとすっごい楽しいし、小坂は俺を慕ってくれている。俺は、恵まれてるはずなんだ。
皆に注目されて、皆を導く光になれてるんだから…

けど、苦しい…
父さんに、「お前なんて引き取るんじゃなかった」って言われた。ここ最近、父さんの機嫌が凄く悪い。
殴られて蹴られて、暴言を浴びせられる。外からは分からないように目立たない場所を選んで…。
姉ちゃんに矛先が向いてないことだけが救いかな。


うん…痛いよ。苦しいよ。
けど、言えるわけないじゃんか。俺が「助けて」って言ったら幸せな日常が全部壊れる…。
壊したくない…例えこの幸せが表面上だけのものだとしても、俺は幸せにすがっていたい。

自分を不幸だと、思いたくない。
不幸になりたくない。
…怖い。」






11月2日

「春乃と出会って一年以上が経った。
相変わらず春乃は綺麗。何も繕ってなくても、目を見張るくらいに。

ずっと一緒にいたいよ、
だって、俺にとって春乃は大切な存在だから。本当に大事だから。
一生分の宝を、神様がくれたんだと思う。

なのにさ、俺は怖いんだ。
自分が、世界が…父さんが、怖い。
お前なんて消えろ、って…。俺、消えた方がいいのかな?目障りだ、って、いなくなった方がいい?

自分が否定されると、自分が誰なのか分からなくなる。
自分を目立たせていないと、暗闇に埋もれて俺が消える。消えたくないから、俺は笑って皆の前に立つ。

でも俺は、光の中にいたい。」





次のページからは、もはや文字は判別出来ない程に崩れていた。



こわい

分からない

幸せ?



所々に点在している罫線を脱線したぐちゃぐちゃの文字が、嫌でも目に入ってくる。
もう秋はいないのに、秋の叫びが今俺がいる現実の世界で反響する。




3月30日

「助けて、助けて、助けて…助けて、
俺はなに?誰?
お願い、否定しないで、俺は…俺は俺は俺は、

お前なんて死ねよ、お前なんて消えろ。
言葉が怖い。痛い…

痛い、体が痛い。
傷つけないで。どうして見えない所を傷つけるの、

そんなに俺が憎い?

そっか、そうだよね。
じゃあなんで引き取ったの。
こんなに憎いなら、嫌いなら、ほっとけばよかったのに、
痛めつけて楽しいの?

助けを求めることが怖い、
皆が思い抱いている秋でいたい。キラキラしてて、眩しくて、明るい俺…


だって、それが俺だから。



……春乃、

春乃を残して俺がいなくなったら、ダメだよね。大切なのに、大切だからこそ…生きなくちゃ…。

放っておくと消えてしまうような儚さが春乃にはある。

俺は、春乃の保護者だからさ、
見守っていないと、ダメなんだ。


俺…、幸せでいたい。
滑稽だって笑われたとしても、光のある世界で、生きていたい。」



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