special white







―雪がポツリ、と窓にぶつかった―



「雪かぁ…」


僕は止むことを知らない、真っ白な雪に目を向けながら呟いた。
しんしんと降り積もる雪は元の大地を塗り潰して、黒も、茶も、緑も、全てを白に塗り替えていく。
…とても、綺麗だ。
去年と同じ雪のはずなのに、受ける印象は全く違う気がした。

コツコツ、と徐々に近づいてくる足音に僕は目を向ける。


「なんだ、リーオ。そんなところに一人で。風邪引くぞ?」


僕は彼の言葉に返答しなければいけないのだけれど、何故だかその言葉が見つからなかった。


「…雪だね。エリオット。」


「え、ああ…そうだな。お前がここに来てから始めてか、そういえば。」


「なんだ、エリオット。そんなこと考えてたの?君のことだからまた剣術のことでも考えながら話してるのかと
思ったんだけど…違ったみたいだね。」


「っおま!リーオ…お前はいちいち一言多いんだよ!ったく………まあ、」


エリオットは言葉を止める。彼の青い瞳が真っ白な雪を捉えたのが見えた。


「まあ?」


「…ちょっとは考えてたかもしんねえけど…」


彼は困ったように小さな声でそう言葉を発した。


「なにさ、エリオット。僕の言ったこと合ってるじゃないか。まあ、君の考えてることなんてお見通しだけどね、
なんて。だけどさっきのはちょっとびっくりしちゃったよ。」


「…?」


「疑問」で一杯、という顔を浮かべた彼は僕の方を振り向く。


「『ここへ来てから始めてか』って」


「…どうしてそれにびっくりすんだよ。」


僕は少し言葉に詰まった。

そんなの…決まってるじゃないか。
エリオット、君はね、「僕」の存在を、「僕」という存在を、ちゃんと見てくれてるんだ…って。考えてくれてるんだ…って。
僕はただ、嬉しいだけなんだよ。
君の記憶の中に存在出来ていることが、君が僕を認識してくれてることがさ。
だからこんなこれぽっちのことだけど、僕にとっては特別な「言葉」なんだ。


「さあね?エリオットには教えられないよ」


「はぁ?はぐらかさないで言えよ!そうやってお前はいつもはぐらかして…」


「まあ、いいじゃない。どうせ大したことじゃないんだから。」



―大したことかもしれないけど―


そう思ったけれど、その思い胸の中だけに収められて、僕は彼の方を向いた。


「じゃあ、一つだけ。」


「おっ、何だよ」


キラキラと無邪気な表情に変わる彼を見ていると思わずこっちまで笑ってしまう。陽だまりにいるように心があったかくなる。


「君、ヴァネッサ様と話があるって言ってなかったっけ?もう時間じゃない?」


「あ」


そう言い、顔を引きつらせたまま彼は「しまった」と呟いた。


「はっ…あああっ…そうだ…っ、まずいぞ…あいつは怒らせたら怖えんだよ…ってもう10分も過ぎてるじゃねえかよ!」


彼が僕の前からすぐさま過ぎ去ったのは言うまでもない。



―これではぐらかせた、か…―



バタバタと過ぎ去っていったエリオットのことを考えながら、やっぱり彼は太陽みたいだなぁ、と思った。
どんな暗い所にいたって、明かりを照らしてくれる太陽みたいな。彼はそういう存在なんだ。


雪が更に降り積もり寒くなる一方で、僕の心は先ほどにも増してぽかぽかと春の光が差し込んだみたいだった。







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