事実の日記、満月の宴

事実の日記、満月の宴 | ナノ









それから俺は、馬鹿みたいに泣いた。

彼女と別れてからフラフラとした足取りで部屋に帰ると、一生分の涙を使い切ってしまうんじゃないか、というくらい泣いた。


鍵のかかった真っ暗な部屋で、泣いて、泣いて、泣いて、今自分が何をしているのか、自分が一体何なのか…。
その全てが分からなくなる程に雫が溢れて、頬を伝って、それは床に滴り落ちる。

しゃくりあげる嗚咽に息することが苦しくなった。
霞んだ世界には絶望と苦しみと悲しみと、ほんの少しの希望があった。


秋は俺といて幸せだったのか?…秋の人生に幸せはあったのか?
もし彼の人生の中にほんの一握りでも幸せが存在していたのなら、その瞬間に彼が充足感に包まれていたのなら。
もしそうなのだとしたら、少しは救われるんじゃないだろうか…。報われるんじゃ、ないだろうか。


机の上に置かれたまま開くことの出来ない日記を遠目に見つめながら、俺はぼんやりと秋の幸せについて考えていた。



起きて、泣いて、考えて、寝て。
その繰り返しの狭間に涙をひたすら流して。
携帯の充電は切りっぱなしで、部屋の扉が叩かれても聞こえない振りをした。
お願いだから、放っておいて欲しかった。考える時間が欲しかった。











そんな時が、何日過ぎ去ったんだろうか。
時計を見ることを止めた俺は、時間の感覚を全く持ち合わせていなかった。
そんなことは、どうでもよかった。


秋の受けた苦しみを考える度に、色々な感情が錯綜して叫び出しそうになった。
何とか声には出さなかったけれど、俺の心は激しく狂おしく慟哭していた。



そんな時、だった。
カーテンの隙間から垣間見える満月の光がガラスに反射して、仄かなオレンジ色の光が机に差していることに気が付いたのは。

思い立ったように前を見ると、霞んだ世界のすぐ向こうに見えるノートが、ぼんやりと浮かび上がっているように見えた。


…俺は、これを読まなくちゃいけない…
秋のことを、知らなくちゃいけない…


「…俺は秋のこと、何も知らなかったね。恥ずかしいくらいに…。
苦しんでたのに、秋は笑ってたよね。…ね、秋…」


震える手でノートを手に取った。
ドキドキと高鳴る心臓にそっと手をやってから、目を閉じて「大丈夫」と心の中で呟く。
目を開けてゆっくりとページを捲ると、見慣れた秋の字体がズラリと目に飛び込んできた。



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