事実の日記、満月の宴

事実の日記、満月の宴 | ナノ





「さっすが会長!これでこのクラスは大盛況間違いなしだな!」
「本物の執事みたいです!」
「我らが会長様…完璧です」


「皆さん褒め過ぎですよ。私のことを称賛したって、何もでませんよ」


「会長があまりにカッコいいから、褒めたくもなりますって」


三年の教室の前を通りがかった時、会長の姿がチラッと垣間見えた。
皆に囲まれた会長はその美しい顔に照れ笑いを浮かべながら、ゆっくりと俺の方へと視線をずらした。


燕尾服が怖いくらいに似合いすぎている。
元がいい人は何を着ても似合うんだろうな、っていう次元を飛び越えていた。
会長のおかげで今年の学祭が大盛況になることは間違いないだろうな、と確信を抱く。


バチっと視線が合ったのにも関わらず、思わず俺は会長の瞳から目を逸らしてしまった。
無視しちゃいけないのに、面と向き合って話さなければいけないのに、どうしても小さな一歩を踏み出せない。


…ごめん、会長……傷つけてごめんね…


心の中に渦巻く申し訳なさに胸を引き裂かれそうになりながらも、俺は「かいちょー、似合ってますね〜」と声を発する。


「あ、副会長じゃん。美形が二人揃うと圧巻だなあ…。すっげえよく似合ってる」


「俺は駄目駄目ですよ〜かいちょーに比べたら全然です」


ニッコリ笑いながらそう言うと、会長はとても悲しそうな顔をした。














「お待たせしました〜シャンパーニュロゼでございます〜」


苺の匂いが香るピンク色をした紅茶をお客さんの所へ運ぶ。
零れないように丁寧にテーブルの上にカップを置くと、俺にチラチラと視線が送られていることに気がつく。
そのお客さん達、若い女性の二人組はただ飲み物を運んできただけなのに、お互い顔を見合わせると一瞬にして頬を真っ赤にした。


…え、俺、なんかした…?


「ゆっくりしていってくださいね〜」


とりあえず頭に浮かんできた言葉を述べると、林檎みたいに顔を真っ赤にした彼女達は「…っ、はっ、はい!」と恥ずかしそうに呟く。


……?…なんだろう…?
うーん、俺何かした?と思い悩みながらバックに戻ると「天然も度が過ぎると凄いな。」と背後から一縷に話しかけられた。


「…え?」


「まあ、いいや…。気づいてなさそうだし」


「気づいてないって、どういうこと〜?」


俺の前に立つ一縷は俺と同様白いシャツにサロンという出で立ちで、憎いくらいにしっくりくる。
会長にしても、一縷にしても、元がいいから似合うのも当然か…


「これから一時間、休憩だってさ。どうする?会長のとこでも行くか?」



「……それは、」


少しの間の後黙り込んでしまった俺を見て、一縷は「いい加減、どうにかしろよな。何があったか知らないけどさ」と小さく言った。



「うん。ごめんね〜?」



「…いいよ。じゃ、小坂のとこでも行くか」


「俺ら休憩行ってくるから、頼んだぞ」とクラスメイトに声掛けをしている彼を一瞬たりとも目を離さずに追っていることに気が付くのは、とても容易なことだった。

目が離せない。考えないようにしても、一縷のことを考えてしまう。
初めて彼に出会った時からは到底考えられないような気持ちが、胸の中でグルグルと渦巻いている。


一縷は、俺のことをどう思ってるんだろう?


俺の気持ちの一方通行なのかもしれない。
人の感情や想いは内側にしまい込まれていて、外から確認することはできない。
そんな分かり切ったことが今はとてももどかしく、とても苦しい。


気持ちを覗き見れたらいいのに…
そうすればこの感情に望みがあるのか、そうじゃないのかが分かるのに。
女々しい心の中と格闘しながら「はあ」と小さくため息をついた時だった。



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