事実の日記、満月の宴

事実の日記、満月の宴 | ナノ






「春先輩、すっごく似合ってますね!」


「そうかなあ〜?小坂ちゃんの方が似合ってるよ?板についてるって感じかな〜」


「お化け役が板についてるってことですか?全然嬉しくないんですけど…!
むうー、いいなあ。春先輩のクラスはカフェで…。そんなカッコいい恰好ができて羨ましいです。僕だってカフェで接客したかった…」


「俺はお化け屋敷の方がよかったなあ〜皆を驚かすの楽しそうだしね〜」


真っ白なワイシャツにサロンを着けた俺はTHE カフェ店員といった感じの出で立ちだった。
一方俺の横で不満を漏らす小坂は、白い着物に黒いロングヘア―というまさしくお化け役です!な恰好をしていた。



学園祭と言えば色々な模擬店を出すのが醍醐味で、この学園では喫茶店やらお化け屋敷やらメイド喫茶やらとにかく沢山の模擬店がクラスごとに出されている。
一年の中で一番盛り上がるイベントだけあって、皆から溢れ出るオーラがキラキラに満ち溢れているように感じる。


「会長のクラスは確か、何でしたっけ?執事カフェ、とかいう…」


「あ〜、そうそう。執事カフェね。会長の執事コスプレ姿とか、学園中がきっと大騒ぎになっちゃうね〜」


「春先輩のその姿も、皆を沸かせるには十分だと思うんですけど」



「なに言ってんの〜俺なんて全然だよ〜」


ヘラヘラと笑いながら言葉を紡ぐ俺の心の中は「よかった、小坂と普通に話せている」と充足感で一杯だった。







修学旅行が終わり、一週間程が経った日に生徒会選挙は執り行われた。
基本的には三月に行われる選挙で会長、副会長、会計、書記(庶務は当選者が出れば)が選出されるのだが、前回の選挙では書記の当選者が出なかった。
この大きな学園内において生徒会に入りたい、という思いを抱くのは結構な勇気のいることだと思うし、選ばれる過程も結構えげつない。


だって、投票用紙に「可」「不可」とか書くんだよ?
人をそうやってふるいにかけるって、残酷なものだと思う。


小坂は中学時代に生徒会に入っていただけあって、人の前に立つ器を持ち備えていた。
勿論成績はいいんだろうし、人懐っこいから誰にでも好かれる。怖気づくこともないし、要領もいい。
彼が生徒会に入りたいと言って、それが否定される訳がなかった。




「あ、僕、クラスに戻りますね。ミーティングがあるって言われてたの思い出して…」


「こっちこそ引き止めちゃってごめんね〜俺も色々準備しなきゃ」





小坂と別れ、ガヤガヤと騒がしい廊下を抜け教室へと急ぐ。
周りから注がれる嫌という程の視線にも、いい加減もう慣れた。
ちらちらと目に入る一際明るい金色の髪は、自分の存在を引き立たせ、太陽のようにさせる。



そしてそれは、俺を春乃じゃなくさせる。
こうすることを選んだのは紛れもない自分で、今更何を言い訳するつもりはない。
言い訳を出来る訳がない。



けれど、もう分からなくなってしまった。
秋の存在に未だ囚われ続けているという事実。
秋の想いを果たすために、俺は自分を偽った。あまりに苦しかったから、そうするしかなかった。

なのに今の俺は、一縷のことが好きで…、好きで好きで…。その感情をちゃんと認めてしまった。


会長の気持ちをないがしろにはしたくない。彼の気持ちときちんと向き合って、俺の気持ちを伝えたい。
俺は、会長を傷つけたくないんだ。俺みたいな人間を好きだと言ってくれた人に対して傷つけるなんてこと、絶対にあり得ない。


いい加減、告白の返事を伝えなければならないことは分かってる。
自分の気持ちも、その答えが「yes」なのか「no」なのかも。


進まなきゃ…。前を向かなくちゃ。
世界の端っこに追いやって見ないようにしてきたものを、現実に持ち込んで目を合わせなければいけない。


そうしない限り、永遠に俺は変わることが出来ない。



[65]





第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -