白露の夜と本心

白露の夜と本心 | ナノ








静寂に包まれた真夜中。
すっかり静まり返った世界の中で、俺は目がすっかり醒めて眠れなくなってしまった意識を暗闇に預けていた。



…俺、一縷のことが好きなんだ…

好きだよ。
好き。


ごめん、否定できないや。




好きが心の内側から溢れだした。
滲んだ淡いピンク色の感情は、形作られる寸前のところで止まっていたんだけど…。

…無理みたいだ。
無視したくても出来ないものって沢山あると思うけど、これは特に秀でているんだと思う。
今まで感じていたドキドキの正体を、はっきりと認めてしまった。



秋に感じていた恋愛感情。
今一縷に感じている恋愛感情。
どちらも同じもので、常に背徳感に支配されている。
俺はいつも大切な人を好きになってしまう。
どうしてなんだろう。
俺に優しくしてくれるかけがえのない大切な人に対して、感情があふれてしまう。


スヤスヤと眠っている一縷の手に出来心でそっと触れてみる。
いつも俺のことを守ってくれる暖かな手は、俺の手が触れた瞬間にピクリと動いた。


「…は、るの……」


彼の口から微かに発せられた言葉が、心臓のドキドキを更に強めた。


…起こした……?ていうか今、名前で呼んだ…?



「…ん…」



寝返りを打つ彼をヒヤヒヤしながら見つめるも起きる気配はなく「危なかった」と微かな囁き声を無意識に発してしまう。
十センチほど開かれた窓からは、まだ夏の匂いを多く含んだ空気が流れ込んでくる。
俺は一縷を起こさないようにそーっと立ち上がり、窓の近くまでそろそろと歩いた。


夏の匂い。暖かい空気。
けど、それは確実に秋の訪れを暗示する空気だった。
もう季節は夏じゃない。秋が来て、紅葉が舞う…。


白露の夜に散りばめられた俺の本心は、消そうと思っても絶対に消えるものじゃない。



俺は、一縷が好きなんだ。
けど、あとほんの少し過去を本当の意味で克服しなければいけない。
目を逸らすことを辞めて、秋と向かい合わなきゃいけない。


「好きだよ…」



誰にも聞こえない呟きは真っ暗な闇に溶けていった。



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