白露の夜と本心

白露の夜と本心 | ナノ



「中学の時に大切な人がいたってこの間言ったでしょ?その人が秋。町屋、秋。中学一年の時に彼の方から俺に話しかけてきたんだ」


「…うん」


一縷は小さくそう呟いた。


「見た目はまさしく今の普段の俺、って感じだった。金髪にカラコン、ピアスはあいてるし制服は着崩してるしで風紀を完璧に乱してたんだけど…。でも、なのに彼は皆から慕われてた。
実際彼を目にしたら分かると思う。人の前に立つ人間ってああいう人のことを言うんだな、って」


言葉がすらすらと出てきた。
一度過去の振り返ってしまえば、ボロボロで鍵をかけた心を開くのは案外安易なようだった。
秋と過ごした日々を直視すれば、俺は壊れてしまうと思っていたのに。


「秋といた時間はすっごくすっごく楽しかった。俺は元々明るい性格じゃなかったから…。目の色が他の人と違うから、からかわれてたりしてて。皆がワイワイ騒いでる輪に入るのが怖くなった。人の顔色伺ったり、自分が皆からどう思われてるんだろうとか、色々考えたら疲れちゃって。
…なら、自分の殻に籠ればいいんだって思った。だから中学に入学してからはずっと一人でいた。自分だけの世界で影にいればいいんだって。けど、秋は屋上に一人でいた俺に突然話しかけてきた」


「…眩しかった。彼を取り囲む全てがキラキラしてて、まるで太陽の光が降り注いだみたいに。
目が合った瞬間に、世界が変わったみたいな感覚に襲われた」


「俺は正直、彼と一緒にいることが怖かった。だって、俺みたいな奴と一緒にいたら、秋の株が下がると思ったから。
けど、秋は人目なんて全く気にしてないみたいだった。俺の手を勢いよく引っ張って、明かりのある場所まで連れて行って…楽しそうに笑ってて。綺麗だ、とか言ってさ。」


俺も一縷と同様にベットに浅く腰掛けると、ギシッ、と軋む音がした。
隣に座る一縷は何を語る訳でもなく、俺の話に静かに耳を傾けていた。


「…二年に進級して、小坂が入学してきた。一縷も知ってるだろ?ほら、あの特待生枠で入学してきた、」


「小坂、って…、生徒会選挙に立候補してるアイツのことか?」


そうなのだ。
小坂は今月末に行われる生徒会選挙に立候補している。中学の時はその人懐っこさと真面目さから会計に当選していたけれど、まさかこの学園でも生徒会に立候補するとは思っていなかった。


彼は変わってしまった俺のことをどう思い、何を感じたんだろうか。
俺が秋の面影を追っていることに小坂は確実に気が付いている。
俺は、嫉妬心を抱いてしまった小坂に対してどのように接したらいいのか分からない。
どんな顔をして、偽った俺のまま関わればいいんだろう。


「そう。小坂は俺の後輩だよ。中学の時は会計の役職に就いてたんだ。
小坂は秋のことをすっごく慕ってて、秋も小坂のことを可愛い後輩だってよく面倒を見てた。
……それで、俺はどうしようもない焦燥感に駆られたんだ」


「………俺、秋のことが好きだったんだ。友達としてじゃなくて、恋愛感情だった。だから、小坂に嫉妬したんだ。秋を取られたらどうしよう、って。真っ黒な感情に体中が支配されて、自分が自分じゃなくなる感覚に陥って……。
引くよね、こんな話聞いたら。ごめんね、気持ち悪いでしょ」


一縷はコホン、と咳払いをすると「なんで気持ち悪いんだ?」と俺の瞳を覗き込みながらはっきりと言った。


「友達だから好きになっちゃいけないのか?…違うだろ。感情を否定されなきゃいけない決まりなんてどこにもない」


それは、優しすぎる肯定だった。
ずっとずっと背徳感に縛られていた、この気持ちを許されたような気がした。


人を好きになる。
それが同性だったならば、逃げ場のない暗闇に放置されたも当然だ。だって、その気持ちは普通じゃない。普通から外れたことは悉く淘汰されて排除される。異質なものとして。
それが世の中の摂理であり、普通のことだ。



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