白露の夜と本心 | ナノ
「綺麗な海!弾ける青春!最高の気分です…っ」
濁りの全くない透明な海を目の前にして、優李が興奮したように言う。
俺達に照りつける太陽は遮るものが全くないのをいいことに、頭から体に至るまでジリジリとその光を照らしてくる。
正直かなり暑いし、早く室内に行きたい。
何で優李はこんなに元気なのかな。
飛行機に乗ってる時からめちゃくちゃテンションは高かったけど、到着してからますます元気になってる気がする。
「春乃様!せっかくの修学旅行ですよ!沖縄ですよ!楽しまなきゃ損です。キラキラ輝く青春は今しかないんですよ?」
「…阿部、とりあえず落ち着け。」
「ゆうゆうが楽しそうで俺も嬉しいよ〜。たくさん思い出作れるといいねえ」
「はいっ、絶対絶対楽しい思い出をいーっぱい作りましょうね!」
俺達二年生は今、修学旅行で沖縄に来ている。
二泊三日の日程で歴史的遺産の見物をしたり、観光したり、多分やることは他の学校と変わらない(はず)。
…ああ、よかった。
海に入って遊びましょうね、的なイベントがなくて。
こういう所だけは真面目なんだよな、この学校。
「そういえばさ、会長と仲直りしたの」
優李と距離が離れていることを確認した一縷が、小声で話しかけてきた。
「……喧嘩じゃないよ」
周りに生徒が歩いていないことを確認してから、俺も小声で答える。
「じゃあ何であんなによそよそしいんだよ。明らかに様子がおかしいだろ」
「おかしくないでしょ、普通だよ」
「会長に告白されたから緊張しちゃって普通に喋れないんだ〜」
なんて言えるわけもなく、適当に苦笑いをして誤魔化すことしかできず。
あの夏祭りの日、会長に突然告白された。
休みが終わって二学期が始まってからと言うもの、会長との関係性が以前と完全に変化してしまった。
表面上は普通…?というか会長は前と変わらず生徒会の雑務を頼んできたり、学校行事のことを話してきたりする。
けれど、それ以外はパッタリとなくなった。
生徒会や学校に関すること以外で話しかけてくることが完全になくなってしまったし、明らかに態度が他人行儀だ。
早く返事をしなきゃいけないことは分かってるんだけど…正直自分の感情がよく分からない。
誰を好きとか付き合いたいってよりも、もっと向き合わなきゃいけないものがある。克服しなきゃいけないことがある。
…だからもう少し、待っていて欲しい。
もう俺は、向き合うべき過去をちゃんと認めている。分かってる。
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