慟哭

慟哭 | ナノ





「…春乃?秋君のお葬式なんだけどね…」


「……うるさい!!!」


母が発する声に対し俺は、声を荒げることしかできなかった。












いつしか声を出すことも億劫になり、ただひたすら部屋に籠もって虚空を見つめることしかできなくなった。


死にたくて死にたくて、あまりにも死にたくて、その思いがあまりにも強すぎるから、本当は生きたいのか、それともただ死んでしまいたいだけなのか分からなくなった。


何も考えたくなかった。感じたくなかった。


ベッドの上で、目を瞑って頭を空っぽにしたい。それだけだった。
自分で自分の命を絶つ勇気がないから、息を吸って、心臓が動いて、俺は存在している。もし誰かが「一緒に死のうよ」と語りかけてくれていたら、きっと、いや、間違いなく死んでいただろう。
意気地なしは時に生きることを強要する。良くも、悪くも。



秋はどうして独りぼっちで死んだんだ。
どうして俺を道連れにしてくれなかったんだ。
何で何も、話してくれなかったんだ。


「……俺の、せいだ」


俺が秋を避けたからだ。
秋は眩しくて、皆を引き連れる太陽だから、強いから、
誰よりも強くて、強くて、


…いつも、笑っていた。


死を選ばなければならない程の何かがあったのに、俺はそれに気がつかなかった。



……最低、だ。


張っては泡沫の不完全さで崩れ去る薄氷のように、日常もまた手を触れると一瞬で崩れ去る。



殺してほしい。
お願いだから、俺を秋のところへ連れて行ってよ。


「…秋…」


微かな声が部屋に響いた。







もういやだ…
お願い、この苦しみから誰か助けて…
いやだ、いやだ、いやだ…


真っ暗な部屋で秋から送られてきたメールを確認しては、涙が枯れるまで泣いた。
慟哭して、慟哭して。もう涙が出なくなる程まで。


「春乃が俺になって皆を導いていってよ」


俺が秋になって、…そうすれば、秋の望みを叶えられる?
秋がそれを望んでいた?本当に…?
苦しい、悲しい…。死んでしまいたい…



ねえ、彼がもう一度ここに戻ってきてくれるのなら、何だってするから。
これから二度と何も望まない。何もいらない。
だから、どうか秋を返して……



…帰ってこない…?うるさいな、分かってるよ。
………全て分かってるってば…




秋が最後に俺に託した願望。
俺が秋のように皆を照らす光になって、先導する存在になれば、ほんの少しでも償いになるだろうか。
俺のことを、許してくれるだろうか。


ううん、秋に許して貰えるなんてことはありえない。俺が秋を殺した。黄金の輝きを奪ったのは俺なんだから、一生この失意と向き合っていかなきゃいけない。
それが俺の責務であり、罪業。



「春乃」を捨てて別人のようになれば、きっと秋のようになれる。
本当の自分なんてどうだっていい。そんなものは鍵をかけて、開かないように厳重にしまい込んでおけばいい。

秋と過ごした日々が思い出に変わるまで、秋の望みを叶える為に生きていれば、きっといつの日か…



だから、弱くて勇気のない俺なんて必要ない。

捨ててしまえ、めちゃくちゃに。
元の自分が何だったか分からないくらいに繕って、演じて、キラキラと輝く太陽のように。いつだって笑顔で。



「ごめんね、秋。俺が、光になるから」










―こうして、俺は皆の前で「春乃」でいることをやめた。



秋を象りながらも、秋と過ごした日々を直視できない。
秋そっくりになろうとしても、心がそれを赦さない。


見た目は秋で、口調は本来の俺とは真逆のものにした。


「口調も間延びした感じにしたら面白いね」


きっと無意識に秋の放った言葉を意識していたんだろう。




本当の俺とは正反対の、あまりにも矛盾した存在。

―それが、今の俺、桜川春乃だ。



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