慟哭 | ナノ
それは、秋と出会って二度目の春のことだった。
ねえ、人が死ぬなんてことがそう簡単に起きると思う?
つい昨日まで実態があって、ちゃんと触れられることが出来て、喋ることができて。
生きているってことがあまりにも当たり前のことだから、死を意識することなんて、ほとんどない。
命があることは人間にとって自明なことだから。
秋は、普通に笑ってた。
その日が来るまで、秋は秋のままだった。
何かに悩んでいる様子もなかった。表面上は、いつものままだった。
俺は秋と一定の距離を取りながら彼と近づきすぎることのないように、以前より深く関わることはやめていた。
一通のメールが深夜に来た。
「夜分にごめん。
春乃に頼みがあるんだ
春乃が俺になって、みんなを導いていってよ。お願いな。」
「いきなりどうしたの?」
俺は思ったままのことを言葉にして返信を送った。
…返信は、来なかった。
ここから先、二度と返信が送られてくることはない。
だって、秋は自分で自分の命を絶ったんだから。
「秋が死んだ」
嘘だ、と信じて疑わなかった。
嘘だ、嘘だ、嘘に決まってる。
誰かがふざけてついた嘘。俺を困らせたくてついた嘘。
だって、秋は笑っていた。
この間まで普通に、楽しそうに笑っていたじゃないか。
確かに、俺は秋のことを避けてしまった。彼のことを好きになってしまったから、前みたいに接することができなくなった。
よそよそしい態度をしてしまった。
彼と目を合わせることができなくなった。
けど、それは秋が嫌いだったからじゃない。
好きすぎて、醜い俺は秋を独り占めしたくて。自分のものにしたくて。
好きで、彼の何もかもが、
…恋愛感情、として。
おかしいな、とは思ったんだ。
深夜に送られてきた、負の予感を含んだ一通のメール。
胸が妙に騒いで仕方なかったのに、深く考えなかった、考えようとしなかったどうしようもない自分。
すぐに秋の所に行っていれば、電話をしていれば、ちゃんと向き合っていれば。
「…いきなりどうしたの?」
なんてメールを返さずに、ちゃんとしていれば…
……………嘘、嘘だ嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、っ違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う、っ
秋が死んだなんて、
彼が死ぬなんて、
太陽がなくなるなんて、
…………そんな訳ない……!!!
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